ある日の事、二人がたきぎを拾いに森へ出かけると、道の途中で一人の男に出会いました。
「こんにちは。たきぎ拾いに行くなら、わたしもお供させてくださいよ」
男はたきぎをしばるロープを持っていたので、二人はすっかり男を信じて、
「ああ、いいとも。一緒に行きましょう」
と、言いました。
この男はキバのようなするどい歯を持ち、けもののような怖い目をしていたのですが、人の良いハンスとクンツは男に親切にしてあげました。
森についた三人は、さっそくたきぎを拾い集めて、たばにしていきました。
「さあ、これだけ集めれば十分だ。そろそろ帰りましょう」
三人は重いたきぎを背負うと、汗をふきながらき歩きました。
やがて広い野原にさしかかると、男が言いました。
「暑い、暑い。汗がびっしょりだ。どうです、このあたりで休みませんか?」
そこで三人は大きな木の下で、ひと休みすることにしました。
遠くの方に、五、六頭のウマが、子ウマを連れて草を食べているのが見えました。
「少し、昼寝でもしませんか?」
「ああ、いいですね」
ハンスもクンツも、賛成しました。
疲れていたハンスはすぐに眠ってしまい、クンツもウトウトしていた、その時です。
後ろの方で、ガサガサと音がしたのです。
(おや、何の音だろう?)
クンツは寝返りをうつと、そっと音のする方を見ました。
すると男が、服を脱いでいるところでした。
(なんだ、服を脱いでいるのか。暑いからな。・・・ややっ、あれは!)
何と裸になった男は、たちまち灰色のおそろしいオオカミに変身したのです。
オオカミはウマのいる方へものすごい早さでかけていくと、そこにいた子ウマに襲いかかって、あっという間に食べてしまったのです。
「うむ、あまりうまくないウマだったな。まあいい、口直しに後であの二人の人間を食ってやろう」
オオカミは口の周りについた血を長い舌でペロリとなめ回すと、人間の姿になって服を着て、なにくわぬ顔で二人を起こしました。
「さあそろそろ、出発しましょうか?」
クンツは恐怖のあまりガタガタと震えていましたが、オオカミにばれないように何とか震えをがまんして起きあがりました。
三人はしばらく道を歩いていましたが、オオカミの男が突然お腹を押さえて立ち止まりました。
「あいてて! あいてててて!」
クンツには、その理由がすぐにわかりました。
「やい、オオカミ男め! 子ウマを一頭たいらげれば、誰だって腹が痛くなるさ。さあハンス。今のうちに逃げよう!」
「なんだと、お前たちも食ってやる!」
オオカミ男は二人を追いかけましたが、お腹が痛くてうまく走ることが出来ません。
「あいてててて! ちくしょう、腹さえ痛くなければ!」
ハンスとクンツはオオカミ男がお腹を押さえているうちに、何とか逃げることが出来ました。