ある日のこと、お母さんはディエロにたんものを一たんわたして、どこかで売ってくるようにいいつけました。
「いいかいディエロ、あんまりペラペラしゃべる人はしんようしてはいけないよ。おまえをだまそうとしているんだからね。口かずのすくない人を見つけて売っておいで」
お母さんにそういわれて、ディエロはたんものをかかえて町へ売りに出かけました。
「えー、たんもの。たんものはいらねえか」
大声でどなりながら、あるいていくと、
「たんものだって? どんなたんものだい。よく見せてごらん」
と、そばへよってきた人がいました。
でもディエロは、「おしゃべりな人をしんようしてはいけない」という、お母さんのことばをおもいだしました。
そこで、
「あんたには、うれないよ」
そうこたえると、ふりむきもせずにあるいていきました。
またしばらくすると、
「たんもののねだんは、いくらだい?」
と、たずねた人がいましたが、ディエロはへんじをしないままあるいていきます。
これでは、たんものが売れるはずはありません。
とうとうディエロは、たんものをかついだまま森の中へはいっていきました。
そこには大きな石でつくった、神さまのほりものがたっていました。
そのまえまでくると、ディエロは、
「こんにちは」
と、声をかけました。
でも、ほりものの神さまが、へんじをするはずはありません。
「おや? あんたは、しゃべるのがきらいなんだね」
へんじをしないほりものの神さまに、ディエロは大よろこびです。
「おれは、あんたのような人をさがしていたんだ。さあ、このたんものをかっておくれ。お金はあしたもらいにきますからね」
と、ディエロはたんものをそこへおいて、家にかえっていきました。
家に帰ってきたディエロから、この話をきいたお母さんはガッカリしていいました。
「おまえは、またへまをしたんだね。そんなことをしたって、お金をもらえやしないよ」
でも、ディエロはへいきなかおで、
「いいや、きっともらってくるよ」
そういうと、そのあくる日、また森へ出かけていきました。
「さあ、だんな、たんもののお金をもらいにきましたよ」
石のほりもののまえへくると、ディエロはあいそよく声をかけましたが、いくらあいそがよくても、ほりものがへんじをするはずがありません。
「なんだ、こら、へんじをしろ!」
ディエロはおこって、道ばたの石ころをひろってなげつけました。
すると、その石のほりものがこわれて、なんと中からピカピカひかる金貨が、ザラザラと出てきたではありませんか。
でも、よくのないディエロは、
「よしよし、はじめからお金を出してくれればいいんだ。では、たんもののお金をうけとるよ」
と、たくさんの金貨の中から一まいだけをとって、うちへかえっていきました。
さて数日後、このディエロのはなしが王さまの耳にはいりました。
「ほう、そのディエロという若者は、なかなかのしょうじきものだな」
そういって王さまは、ディエロをおしろへよびよせて、ほうびにたくさんのお金をくれたのです。
ディエロがそのお金のふくろをかついで、うちへかえってきますと、
「まあディエロ、おまえはたいした子だよ。ほんとうにえらいねえ」
と、ようやくお母さんがほめてくれました。