ところが犬はもうすっかり年をとっていて歯がなくなり、どろぼうが来てもかみつくことができません。
そこで元気なネコの仕事を、手伝うことになりました。
ある日、お金持ちはとなりの町にいる娘に、指輪をプレゼントしようと思って犬とネコを呼びました。
「おい、ネコ。この指輪を娘のところに届けてくれ。犬はネコの道案内をするんだ」
犬とネコは、さっそくとなりの町へ出かけました。
途中に、大きな川がありました。
川には橋がないので、泳いでわたるよりしかたありません。
そこで、犬が言いました。
「お前はうまく泳げないから、わしが指輪を持っていってあげよう」
「だめだよ。だんなさまは、おいらに持っていけと言ったもの。それにあんたは歯がないから、うまく指輪をくわえられないだろ」
でも犬は、こんなときぐらい、自分の方が役に立ちたいと思いました。
「いや、わしが持っていく。歯がなくても大丈夫だ」
犬は指輪をくわえると、いきおいよく川へとびこみました。
ところが川は広くて、そのうえ流れが早いため、なかなか向こう岸へ泳ぎ着くことができません。
そのために元気なネコの方が、犬より先に向こう岸へ泳ぎ着きました。
犬はすっかり疲れてしまい、もう少しで向こう岸へつくというときに、指輪を川の中へ落としてしまったのです。
「だから、言わんこっちゃない」
ネコは怒りましたが、いくら怒っても、指輪はもどってきません。
二匹はしばらく休んでから、また川を泳いで家へもどってきました。
「なあ、なんと言ってあやまろうか?」
犬がたずねると、ネコは冷たく言いました。
「ふん。そんなこと、知るもんか。だんなさまに、怒られるがいいさ」
「そんな???」
家が近づいてくると、犬はだんだんこわくなってきて、とうとう逃げだしてしまいました。
ネコは一人で帰ると、お金持ちにこれまでのことを話しました。
「なんだと! 指輪を川の中へ落っことしただと! よし、犬を見つけだして、しっぽを切ってやる!」
お金持ちはかんかんに怒って、町の人たちを集めて犬をさがさせました。
そして人ばかりでなく、世界中の犬にもたのんで、この年寄りの犬をさがさせたのです。
このときから、犬が仲間と行き会うと、
「お前は、まさか指輪をなくした犬じゃないだろうね。もしそうなら、しっぽを切らなくちゃいけないが」
と、言うようになりました。
だから犬は、いまでも仲間に会うと歯をむいて、自分が指輪をなくした犬でないことを見せているのです。
ついでに、ネコが泳げなくなったのも、このときからだそうです。