スーホーはお母さんと、二人でヒツジを飼って暮らしていました。
ある日スーホーは、ヒツジに草を食べさせに行ったきり、日が暮れても帰って来ません。
お母さんが心配していると、スーホーは生まれたての白い子ウマを抱いて帰って来ました。
「まあ、きれいな子ウマだね。どうしたんだい?」
お母さんが聞くと、スーホーはうれしそうに言いました。
「帰る途中で見つけたんです。
持ち主もやって来ないし、母ウマもいないんです。
夜になってオオカミにでも食われたらかわいそうだから、連れて帰って来ました。
家で飼ってやりましょう」
スーホーは白い子ウマをとても可愛がって、大事に大事に育てました。
子ウマはどんどん大きくなり、やがて雪の様にまっ白な立派なウマになりました。
スーホーと白いウマは、仲の良い兄弟の様にいつも一緒です。
ある日の事、村にすばらしい知らせが伝わりました。
王さまが若者たちを集めて、競馬(けいば)大会を開くというのです。
そのうえ優勝した者は、王女のお婿さんにむかえられるというのでした。
それを聞いた村の人たちは、言いました。
「スーホー、行っておいでよ。お前なら、きっと優勝できるよ」
そしていよいよ、競馬大会の日がやって来ました。
国中から、じまんのウマを連れた若者が集まりました。
けれど白いウマに乗ったスーホーにかなうものは一人もおらず、スーホーが優勝したのです。
「あの若者と白いウマを、ここへ呼びなさい」
と、王さまは言いました。
スーホーは、大喜びです。
ところが王さまはスーホーが貧乏(びんぼう)なヒツジ飼いだとわかると、王女のお婿さんにするのが嫌になってしまいました。
王さまは、冷たく言いました。
「その白いウマを、置いていけ。そのかわりに、黄金三枚をお前にやる事にする」
これを聞いたスーホーは、びっくりです。
(この白いウマは家族の様なものだ。それをお金で買おうなんて、なんてひどい事を)
スーホーは、王さまの命令を断りました。
すると王さまは、顔をまっ赤にして怒り出し、
「王の言う事を聞かぬぶれい者め。この者をムチで叩くがよい」
家来たちはスーホーを、ムチでピシピシ打ちました。
キズだらけになったスーホーは見物席の外へ放り出され、王さまは家来に白いウマを引かせて帰っていきました。
スーホーは友だちに助けられて、やっと家に帰りました。
ムチのためにすっかりボロボロになったスーホーは、何日も寝たきりでした。
でもお母さんの必死のかんびょうで、だんだん元気になりました。
ある晩の事です。
トントンと、門の戸を叩く音がしました。
「誰だい?」
「??????」
返事は、ありません。
「何の音だろう?」
外に出たスーホーは、びっくり。
白いウマが、門のそばに立っていたからです。
「お、お前、帰って来たのかい」
スーホーはかけ寄って、思わず白いウマを抱きしめました。
ところが白いウマの体には、何本もの鋭い矢が突き刺さっているではありませんか。
「なんて、ひどいことを!」
スーホーは夢中で矢を引き抜き、お母さんと一緒にキズの手当をしてやりました。
けれど白いウマは次の日、死んでしまいました。
やがてスーホーは、白いウマが戻って来たわけを知る事が出来ました。
王さまは白いウマを手に入れたのがうれしくて、人々を呼んで酒もりを始めました。
ところが大勢の人々の前で白いウマに乗ろうとしたとたん、白いウマは王さまを振り落としてしまったのです。
怒った王さまは、家来たちに向かって叫びました。
「あの暴れウマを捕まえろ。捕まらなければ、殺してしまえ」
家来たちは逃げて行く白いウマに向かって、雨の様に矢をあびせました。
それでも白いウマは、走ったのです。
体に矢が刺さりながらも、なつかしいスーホーの家に向かって死にものぐるいで走ったのです。
白いウマは、自分を可愛がり育ててくれたスーホーのそばで死にたかったのでした。
白いウマが死んでから、スーホーは悲しくて、くやしくて、夜もなかなか眠れない日が続きました。
そしてある日、スーホーは弓矢を取り出すと、その弓矢の手入れを始めました。
白いウマのかたきをうつため、この弓矢で王さまを殺そうと思ったのです。
(白いウマよ、待っていろよ。明日の朝、あの王さまを殺してお前のかたきをうってやるからな)
その日の晩、スーホーの夢の中に白いウマが現れて言いました。
「スーホーさん、わたしのかたきをうつ事を決心してくれてありがとう。
本当に、うれしいです。
でも、もうわたしは死んでしまっています。
王さまを殺しても、わたしが生き返る事はありません。
それどころか、あなたも殺されてしまうでしょう。
どうか、かたきうちはやめてください。
それより、一つお願いがあるのです。
どうかわたしの体で、琴(こと)をこしらえてください。
わたしは琴になって、いつまでもあなたのそばにいます」
次の日、スーホーは白いウマの骨と尻尾を使って琴を作りました。
さおの先は、白いウマの頭の形をきざみました。
やがてスーホーは草原でヒツジのばんをしながら、いつもこの琴をひくようになりました。
美しい琴の音と胸にしみるそのしらべは、ほかのヒツジ飼いたちにとってもこの上ないなぐさめとなりました。
スーホーの琴が聞こえてくると、みんなは一日の疲れを忘れてじっと静かにその音色に耳をかたむけるのでした。