バニアの仕事は、ナベやカマを売ったり直す事です。
ある晩、仕事で帰るのが遅くなったバニアは、古い教会の前でウマをとめました。
教会には誰も住んでおらず、教会のまわりは墓場(はかば)でした。
「気味が悪いが、今夜はここで寝るとしよう」
バニアは毛布を広げると、グーグーと眠ってしまいました。
今夜は星空のきれいな日で、空にはまるい月がかかっています。
?ボーン、ボーン。
教会の鐘(かね)が、十二時をうちました。
その時です。
墓場の地面が、地震のようにグラグラとゆれました。
「なっ、何だ?」
バニアは飛び起きると、あわてて近くの木のかげにかくれました。
するとゆれていた地面がバックリと割れ、中から白い服を着た恐ろしい顔の魔物が出て来たのです。
頭には棺(かん)おけのふたをのせ、目は青白く光り、口からは鋭いキバが生えています。
この魔物は人間の血を吸って殺してしまう、吸血鬼(きゅうけつき)に間違いありません。
吸血鬼は月の明るい晩に墓場から現れて、人間の血を求めてさまよい歩くのです。
吸血鬼は棺おけのふたを教会のかベに立てかけると、人間の血を求めて村の方へ行ってしまいました。
「このままでは、村人たちが殺されてしまう」
その時バニアは、子どもの頃におばあさんから聞いた話しを思い出しました。
『いいかい、バニア。
吸血鬼は恐ろしい魔物で、弓矢や剣では倒せないんだ。
だけど太陽の光には弱くてね、明け方までに棺おけに入ってふたをしっかりしめないと、干物のようにひからびてしまうんだ。
でも、それだけでは死なないよ。
吸血鬼は夜になると、また生き返るからね。
二度と生き返らないようにするには、とねりこ(→モクセイ科の落葉小高木)の木で作ったクイを、吸血鬼の心臓に突き刺すんだ 』
バニアは教会のかべに立てかけてあった棺おけのふたをかかえると、木のかげに隠れて吸血鬼が帰って来るのを待ちました。
夜明け近くになると、人間の血をたっぷりと吸ったのか、吸血鬼が満足そうな顔で帰ってきました。
ところが、教会のかべを見てビックリ。
「ややっ、ふたがない! あれがなくては、おれは死んでしまう!」
吸血鬼は必死になって、棺おけのふたを探します。
「どこだ、どこだ、どこだ、どこなんだー!」
そのあわてたようすがおかしくて、バニアはクスッと笑ってしまいました。
それに気づいた吸血鬼は、隠れているバニアを見つけました。
「さてはお前だな、棺おけのふたを盗んだのは!
すぐ返さないと、お前の血を全部吸ってやるぞ!」
「ふん、その前に、この棺おけのふたをバラバラにしてやる!」
バニアは棺おけのふたに、鉄のナベをふりかざしました。
「ああ、やめてくれ、やめてくれ!」
「じゃあ、今日は誰を殺してきたのか言うんだ!
それからその人間を、生き返らせる方法も言うんだ!」
吸血鬼は、かぼそい声で答えました。
「今日は、村のグレゴリじいさんの血を吸った。
生き返らせるには、おれの服の左側を切り取って、死人の部屋で燃やせばいい。
そのけむりを浴びれば、死人が生き返るのだ」
「よし、ではお前の服の左側と、棺おけのふたを交換だ」
吸血鬼は自分の服の左側を破って渡すと、受け取った棺おけのふたを頭にのせて急いで墓に飛び込みました。
ちょうどその時、ニワトリが『コケコッコー』と鳴きました。
夜が、明けたのです。
「ギャアーー! ひと足おそかったか!」
朝日をあびた吸血鬼は頭に棺おけのふたをのせたまま、干物(ひもの)のようにひからびてしまいました。
バニアは吸血鬼の服の左側を持って、村へと急ぎました。
そしてグレゴリじいさんの家を見つけると、吸血鬼の言った方法でグレゴリじいさんを生き返らせてやりました。
それから村人たちを案内して、ひからびた吸血鬼を見せました。
バニアは、とねりこの木の枝をとがらすと、おどろいている村人の前で吸血鬼の心臓に突き刺しました。
「さあ、これで安心。吸血鬼は、二度と生き返る事はありません」
吸血鬼をやっつけたバニアに、村人たちはたくさんのお礼をしたそうです。