ところで、平安貴族が使用していたトイレは、実は「オマル」でした。といっても、「樋筥(ひばこ)」とか「虎子(おおつぼ)」「清筥(しのはこ)」とよばれる木製の箱で、多くは漆が塗られ、なかには紫檀地に螺鈿(らでん)をちりばめたようなものもあったとか。さすが貴族ですね。
貴族たちは、用を足したくなったら、「オマル」係の女官を呼びつけます。彼女らは樋洗(ひすまし)とか須麻志女官とよばれ、彼女らがオマルを持って現れると、御簾で周りを取り囲み、その中で用便をしました。終わったら樋殿(ひどの)とよばれる場所に運んで中身を捨て、オマルをきれいに洗っていました。
外出のときもオマルを持った女官が従い、いつどこでも用を足すことができました。その昔は、人間がトイレに行っていたのではなく、トイレのほうが人間のところにやってきていたのです。