体というものは、面白いものだ。
人間の体は微妙、且つ繊細に変化する。この夏のはじめは殊の外、暑かった。
暑いさなかのランニングは、ひどく体力を消耗するので、ほかの運動に切り替える方がよいとされている。
それで、わたしは毎日のランニングを、暫時、休みとした。
それはよかったのだが……。
生活のバランスがほんの少しくずれた。
走らなくてよいと思うから、つい余分の仕事を入れる。人と会う。すると玄米食をとる回数がどうしても減る。
運動、食事がわたしの健康の源であったのに、そこが少々おろそかになった。
運の悪いことに、ウッチンが品切れになる。
ウッチンは沖縄で簡単に手に入るショウガ科の薬草で(薬草といっても根の部分を乾燥させ粉末にしたもの)体調を整えるのにもってこいのものだ。
ウッチンは和名ウコンで、カレーに入っている黄色の成分といえば、誰でもうなずく。暑いときにカレーを食うのは、理に適《かな》っているわけである。
沖縄の人は昔からたいした知恵を持っていて、これを常用すると体に良いことを知っていた。
わたしの健康は、このウッチンに負うところが多い。
ポパイにホウレンソウ、ハイタニケンジロウにウッチンである。それがなくなった。
体の変化がどこにくるのかというと、誰でもそうだろうが、その人間の弱い部分に、まず、くる。わたしの場合は胃。
膨張感で不快きわまりない。
酒を飲んでも気持ちよく酔えない。これくらいの量なのに、と思うのに宿酔《ふつかよい》する。
そして、とうとういちばん嫌なところへ、そいつがきた。不眠である。
不眠症ぎみの体質は、もう、ほぼ完全に克服したと思っていたのでがっかりした。
やれやれと思う。
ま、死にはしないだろうけれど、白い、長い時間をまんじりともせず過ごす夜は、けっこうつらい。
あしたから走ろうと思った。
ウッチンも取り寄せた。
わたしの体は、きわめて正直に反応する。根性はひねくれているが、体はいたって素直なのである。
体調は三日ほどで、もとへ戻った。
自分で、へえーと思う。
以前、健康法にふれて、そんなものはなんだっていい。要は、心身との対話が大事なのだと書いた。
わたしは早め早めにそれができるので、まことにありがたい。
体の、わずかな変化をとらえて(わたしの場合は、どーんとくるが)素早く対応する。それが、わたしには面白いのである。
自然と、自分の体にいちばん興味があり、あれこれやってみては楽しんでいるというところだが、これは、わたしの究極の遊びである。この遊びは、学ぶ事のきわめて多い胸のわくわくする道でもある。