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蛇神3-10-2

时间: 2019-03-25    进入日语论坛
核心提示:    2 病室に入ると同時に、夫の貴明は、「また来る」と言って、そそくさと部屋を出て行った。 新庄美里は、水を替えたば
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 病室に入ると同時に、夫の貴明は、「また来る」と言って、そそくさと部屋を出て行った。
 新庄美里は、水を替えたばかりの花瓶を両手に抱えたまま、夫を見送ると、ベッドの上の息子の方に視線を移した。
 どういうわけか、武はひどく咳《せ》き込んでいた。
「どうしたの?」
 花瓶をかたわらのテーブルに置いて、息子のそばに駆け寄ると、心配そうに聞いた。
「……なんでもない。水……のもうとしたら変なとこに入っちゃって」
 武は咳き込みながらもそう言った。サイドテーブルには水差しが置いてある。どうやら不自然な姿勢でそれを飲もうとして、水が気管にでも入ったらしい。
 しかも、咳をするたびに、縫合したばかりの傷口が痛むらしく、よほど痛いのか、目には涙さえ浮かべていた。
「お父さん、何か言ってた?」
 ようやく咳の発作がおさまって、ぐったりと仰向《あおむ》けになっている息子に、美里は聞いた。
 病室に入ったとき、夫と息子の間に、何やらピンと張り詰めた氷のような冷めたい空気が漂っているのを感じた。それは、昨日今日にはじまったことではないが……。
「可愛《かわい》い息子が生き返ってくれて嬉《うれ》しい」
 武は唇を歪《ゆが》めて言った。
「……てなことをあいつが言うわけないか。番犬どもを引き連れずに、珍しく独りで来たかと思ったら、開口一番、警察やマスコミによけいなことは喋《しやべ》るな……だもんな。息子の命より、まずマスコミ対策ってか」
 武は憎々しげに言い捨てた。
「それは誤解よ。お父さんだってあなたのことが心配で……」
「あいつが心配しているのは、俺が何かしでかして、自分の首が危なくなることだけさ」
「武……」
 いつからこうなってしまったのだろう。
 美里は暗澹《あんたん》とした思いで、息子の顔を見ながら思った。
 小さい頃は、身体《からだ》が弱く病気がちだったこともあって、それを不憫《ふびん》がってか、夫は、長男以上にこの次男を可愛がっていた。武の方も父親によくなついていた。父親を誰よりも尊敬しているようだった。
 そんな二人の関係が目に見えておかしくなってきたのは、武が中学に入った頃からだった。虚弱な体質を少しでも改善しようと、空手や剣道をはじめ様々なスポーツを半ば強制的にやらせたことが功を奏して、この頃には、幼い頃のひ弱さがまるで嘘《うそ》のように逞《たくま》しくなっていた。ただ、健康体になったのはよかったのだが、少し元気になりすぎた。身体を鍛えたことが裏目に出てしまった。
「健全」なスポーツだけでは、体内にたまった途方もないエネルギーを発散できないとばかりに、同級生や他校の生徒と喧嘩《けんか》に明け暮れるようになり、なまじ武道の心得があったばかりに、相手の生徒を半死半生の目に遭《あ》わせて、傷害事件として告訴されかけたのを、夫が陰でもみ消したことも一度や二度ではなかった。
 学業の方も、知能指数は並以上のはずなのに、さっぱり振るわない。
 しかも、右を向けといえば素直に右を向くような長男と違って、父親の言うことやることに、ことごとく反発するようになった。最初のうちは、「反抗期か」と笑う余裕を見せていた夫も、そんな次男に対して次第に距離を置くような冷淡な態度を示すようになった。
 それでも、高校に入って、知人の勧めでボクシングを始めるようになってからは、前ほど喧嘩|沙汰《ざた》も起こさなくなり、少し落ち着いたように見えた。
 ところが、美里がほっとしたのもつかの間、今度は別の問題を起こした。高二のときの担任だった女性教師と一線を越えた関係になってしまったのだ。この件も、スキャンダルとして広まる前に、夫が素早く手を回してもみ消したのだが、この頃には、夫と息子の関係は修復できないほど悪化していた。
 そして、今年になって、長男が現役で難無く合格した大学の受験に失敗してからは、夫は次男を完全に見限ってしまったように見えた。
 いまや、武は、新庄家の面汚しといってもよかった。家族だけでなく、親戚《しんせき》筋からもそのような目で見られている。
 長男がいつか言っていた言葉を借りれば、「武は親父の脳に出来た小さな腫瘍《しゆよう》のようなものさ。下手をすると命取りになりかねない。でも、取り除きたくても、微妙なところにあるので切り取ることもできない。これ以上大きくならないことを祈るしかない存在」だった。
 それでも、「馬鹿な子ほど可愛い」とでもいうのか、美里は、この次男が可愛くてしょうがなかった。夫からは「甘やかしすぎる」と再三言われ、自分でもそう自覚しながらも、いざとなると、つい手を広げて、親鳥が雛《ひな》をかばうようにかばいたくなってしまう。
 ただ、それは、実の母親だからというだけではなさそうだった。
「見ているうちに、放っておけなくなって……」
 これは、教え子との関係が学校側に知れて、二十年近く続けた教師という職業と同時に家庭をも失った中年の女教師が、いつか、美里に向かって漏らした言葉でもあった。
 あのときは、どうしてもっと大人《おとな》の理性と分別をもって息子に接してくれなかったのかと、自分とさほど年の変わらぬ女教師に怒りをおぼえ、口に出して詰《なじ》りもしたが、今から思えば、なんとなく、あの女の言わんとすることも分からないわけではなかった……。
 武には何かある。
 どんな女の中にも眠っている「母性」のようなものを苦もなく引き出す不思議な力が生まれつき備わっているような気がしてならなかった。
 自分を守らせるために。
「母さん……」
 そんなことをボンヤリと考えながら、水を替えたばかりの花瓶に見舞い用の花を生けていた美里に、武がふいに声をかけた。
「あれ、どうした?」
「あれって?」
 美里は振り返って聞いた。
「俺、お守り、もってなかった?」
「ああ、それなら……」
 そういえば、手術が終わったあと、看護婦の一人から、「患者さんが、ずっと握っていた」と手渡されたものがあった。それは、どこの神社でも売っているようなありふれた守袋だった。血で汚れていたので、捨ててしまおうかとも思ったのだが、武が九死に一生を得たのも、この守袋のおかげかもしれないと思うと捨てることもできず、そのまま、持っていたバッグに入れた記憶があった。
「これのこと?」
 バックの中からそれを取り出し、息子に見せると、
「その中に髪の毛、入ってない?」
 と武は言った。
「……髪の毛?」
 美里は怪訝《けげん》そうな顔をしながらも、守袋の口を開いて中を改めてみた。すると、確かに、中から一つまみほどの人間のものらしき髪の毛が出てきた。
「どうしたの、これ……?」
 美里は気味悪そうに、指でつまみあげたそれを見た。
「犯人の女の髪だよ」
 武はそう言った。
「……え?」
「あの女が弟のために作ったんだって……」
 武は、女の髪の毛の入った守袋をなぜ自分が握り締めたまま病院にかつぎ込まれてきたのか、その経緯を母親に話した。
 武の話では、最初は「ヒロ」と名乗っていたその女には重い心臓病の弟がいて、その弟のことが今回の一連の事件の要因になっていたらしい。
 しかも、ナイフをよけようとしてついた防衛痕《ぼうえいこん》だとばかり思っていた掌の切り傷も、全く違った意味をもつ傷だったことを知って、美里は、犯人の女に対して複雑な思いを抱かざるを得なかった。
 感謝……にも似た感情だった。
 息子をこんな目に遭わせた当の犯人に「感謝」するというのも変な話だが、不思議なことに、憎しみのようなものは湧いてこなかった。
 しかも、犯人は既に自殺していた。十九階のマンションのベランダから飛び降りて、ほぼ即死だったという。
 憎みたくても、その対象が亡くなっているのだから憎みようもなかった。それに、最後には、一思いに殺すこともできたのに、それをしなかったのだから、矛盾するとは分かっていながらも、感謝としかいいようのない気持ちを犯人に抱かざるを得なかった。
 しかし……。
「感謝」するとしたら、犯人よりも、むしろ、「ヒロ」という女性の方かもしれないと美里はすぐに思い直した。
 武の話では、犯人の友人らしき「ヒロ」という女性がたまたまかけてきた電話が、犯人の凶行を結果的にくい止めることになったというのだから。
 もし、あのとき、この女性が電話をかけてこなければ……。そう想像しただけで、美里は全身が震えそうになった。
 武は、おそらく、前の二人の被害者のように、無残この上ない遺体となって発見されていただろう。それも、おそらく、久しぶりにあの部屋を訪ねた父親によって……。
 その可能性も十分にあったことを考えると、この「ヒロ」という女性こそが息子の命を救ってくれた恩人であり、感謝してもしたりない存在であるように思えてならなかった。
 むろん、当の女性の方は、そんなこととは夢にも知らずに、あの電話をかけてきたのだろうが。
 もし、いつか、機会があったら……。
 美里は思った。
 この「ヒロ」という女性に会って、たとえ偶然の結果にせよ、息子の命を救ってくれたことのお礼を言いたい……と。
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