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蛇神5-9-9

时间: 2019-03-27    进入日语论坛
核心提示:     9 まさか。 私は。 そのとき、カラリと襖《ふすま》の開くような音がした。書斎の方から物音がする。 誰かが入っ
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      9
 
 まさか。
 私は……。
 そのとき、カラリと襖《ふすま》の開くような音がした。書斎の方から物音がする。
 誰かが入ってきたのだ。
 誰だ。
 声もかけずに当主の部屋にいきなり入って来るとは……。
 そう思って唖然《あぜん》と見ていると、寝室の襖が外から開いて、戸口に人影が立ちはだかった。書斎の明かりを背景に立っていたのは美奈代だった。
「美奈代……」
 聖二は布団の上に仰向けになって、ミカヤと名乗る女にのしかかられたまま、妻の顔を仰ぎ見た。
 こちらの顔つきも尋常ではなかった。ふだんとは形相《ぎようそう》がガラリと変わっている。それはまさしく額に角がないだけの鬼女の形相だった。
 しかも、何をするつもりなのか、片手に赤い灯油用のポリタンクを重そうにぶらさげて仁王立ちに立っていた。
「やっぱり……おまえたちは」
 一つの布団の上に折り重なるようにしてもつれ合っていた半裸の夫と養女の方を、美奈代はどこか鮫《さめ》を思わせる表情の死んだ目で見下ろしながら、唸《うな》るように呟《つぶや》いた。
「違う。美奈代、誤解だ」
 聖二は自分の上にのしかかっていた女の身体を突き飛ばして脇にどかせると、慌てて身体を起こした。
 もっとも、この状況では、いくら誤解だと叫んでも何の説得力もないだろうことは百も承知だったが。
「この魔女が売女《ばいた》が。淫乱《いんらん》な牝犬《めすいぬ》が。よくも人の夫を寝取りやがって」
 美奈代の口から、聖二が今まで聞いたこともないような口汚い言葉が呪詛《じゆそ》のように次から次へと迸《ほとばし》り出たかと思うと、
「魔女め。焼き殺してやる」
 美奈代はそう叫んで、持っていたポリタンクの蓋《ふた》を取って投げ捨てると、タンクを両手で持ち上げ、日美香めがけて、中の灯油をざばっとぶちまけた。
 灯油の臭いが部屋中に立ちのぼった。
 髪からパジャマから全身灯油まみれになって、日美香は茫然《ぼうぜん》としていた。そばにいた聖二の乱れた寝間着にも灯油は撥《は》ねかかった。
「おまえなんか生きたまま焼き殺してやる……」
 美奈代は、薄ら笑いを浮かべると、上着のポケットに手を入れ、中からマッチを取り出した。
「やめろ……」
 聖二は妻が何をするつもりなのか察すると、素早く跳ね起きた。無我夢中で、床の間に飾ってあった守り刀を掴《つか》むと、鞘《さや》を払った。
 美奈代が手にしたマッチからマッチ棒を一本取り出し、それを擦ろうとしたのと、聖二が鞘払い捨てた日本刀を両手に握って振りかざし、妻めがめて一気に振り下ろしたのがほぼ同時だった。
 血しぶきがあがった。
 美奈代は、肩から腹まで袈裟《けさ》がけに斬られて、どうっとその場に崩れ落ちた。
 なぜか悲鳴はあげなかった。
 左手にはマッチ、右手にはマッチ棒を握ったまま、うつ伏せに倒れた妻の身体の下から鮮血が溢れるように流れ出し、畳を真っ赤に染めた。
 妻の返り血をまともに浴びた聖二の方も全身灯油と鮮血にまみれている。
 そして、血の滴る抜き身を片手にぶらさげて、しばらく放心したように妻の遺体を見下ろしていたが、すぐに我にかえったように背後を振り返った。
 そこには、全身を灯油まみれにされてガタガタと震えている日美香がいた。
 その顔からは、もはやミカヤと名乗った女の野性的な奔放さは消えていた。
「早く部屋に戻れ」
 聖二は震えている日美香に鋭く命じた。
「で、でも、美奈代さんが……」
「心配しなくていい。美奈代のことは私が片付ける。おまえは部屋に戻れ。騒ぎを聞き付けて誰か起き出してきたら厄介だから」
 聖二はそういうと、右手に日本刀を握ったまま、左手で、日美香の身体を寝室から押し出すような仕草をした。
「部屋に戻ってすぐに着替えるんだ。何があっても部屋から出てくるな。明日、誰に聞かれても、眠っていて何も知らなかった。そう言うんだ。いいな?」
 日美香は暗示にかかったようにこくんと頷《うなず》いた。
「さあ、早く!」
 聖二に促されて、その地獄絵のような寝室を出た。
 あとは夢中で廊下を小走りに走り、自分の部屋に逃げ帰った。
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