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落語特選32

时间: 2019-09-22    进入日语论坛
核心提示:心眼盲人の夢姿を見ず 聾の夢音を聞かずこれは天性生まれつき不自由な方のこと。そこへいくと中年から見えなくなった方は、よく
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心眼

盲人の夢姿を見ず 聾の夢音を聞かず
これは天性——生まれつき不自由な方のこと。
そこへいくと中年から見えなくなった方は、よく夢を見る、姿も見れば聞えもする。不自由になる以前に、見聞きしたものが、目に残り、耳に残っているから……。
中で一番困るのは、俄《にわ》か盲人。なまじ見えただけに先にいろいろ考えて、勘がはたらかないから何事にもまごつく、馴《な》れてしまえば、盲人のほうが目明きよりも勘がよい。というのは心眼といって、心の眼で見るために、雑念がなく、集中して見透すことができる。
目明きの人間は、心の中で感じようとするとき、目にいろいろなことが見えて、かえって気が散り、気が移る。その点、目の見えない方はまことに平穏無事、芸事なども盲人には名人が多く出るようで……。
「おや、おまえさん、どうしたの? たいそう早く帰って来て、横浜も思うようじゃァなかったと見えますね」
「はっは、どうも驚いたよ……どうも。おれも長くいるつもりで行ったんだけどいずこも同じだねェ。いいえねえ、夜ね、遅くまで流して歩ッてるんだけども、まるっきり療治《りようじ》がないんだよ。で、あんまりたいしたこともないから、そいからね、あきらめて帰って来ちゃった」
「それはいけなかったね、どこが景気がよくって、どこが悪いてえわけじゃァなし、一体に不景気なんだから。またおまえさん……景気のいいこともあるんだから、しかたがないからこっちでぼつぼつ稼ぐんですね。おやッ、どうかしたの? たいそう顔の色が悪いようだけど、心持ちでも悪いの?」
「なに別に気分は悪いこともねえ、心持ち悪いことはねえ。なにしろ歩きつけない道を横浜から歩いて帰って来たものだから、すっかり疲れてしまった」
「なんだって横浜から歩いて来たの、嫌《いや》だねえ。おまえさん、金さんに話をして、なぜ汽車賃だけ借りてこないんだね。そこが兄弟じゃァないか、どんなことをしたって立替えておくんなさるのに、なんだって歩いて……あァ、おまえさん喧嘩をして来たね? 金さんとまた言いあいでもして……ェェそうなんだろ?」
「うーん、……ああ、おれはなんでこんな不自由な身体《からだ》になったんだろう。……お竹、悔しいや……」
「なんだねえ、おまえさん、泣くほど悔しいことがあったら、連れ添う女房じゃないか、どんなことがあったか話をして聞かせてよ。どうしたんだよ」
「うん。……いま言った通り、どうもあっちも不景気なんで、毎晩十二時過ぎ、一時ごろまでも伊勢佐木通りを流して歩くんだけれども、療治がまるっきりない。だもんで、家へ銭《ぜに》を持って帰らないだろう。飯代《はんだい》も入れることが出来ねえだろう。すると、あの金公の野郎がね。『この不景気に、ど盲目《めくら》、食い潰《つぶ》しに来やがった』……『療治が下手《へた》だから揉《も》ませる客がありゃァしねえ、くたばり損いめっ』なんて言やがって……箸《はし》のあげおろしにおれのことを『ど盲目《めくら》、ど盲目』って言やがる。畜生め、悔しくって悔しくってたまらねえから、あいつの喉笛ェおれァ食《くら》いついてやろうと思ったけども、なにしろこういう不自由な身体だ、そんなことをした日にゃァあべこべにぶっ倒されてしまうし、いっそのこと悔しいから面《つら》当てに、軒ィでも首ィ縊《くく》ってしまおうか、身でも投げてやろうかと思ったけれども、おれが風邪《かぜ》ェひいて寝ても、おまえがふだん心配するんだから……もし、おれが死んだってえことを聞いたら、さだめしおまえが嘆くだろうと思って、死ぬにも死なれず……知らない道を聞きながら、おれァ横浜から、じつは、歩いて帰って来たんだよ」
「そりゃァ、気の毒な……大変だったろうに……」
「泣くなよ……これと言うのもおれが目が不自由なればこそ、そうやって他人《ひと》がばかにしやァがるんだからね。人間はね、一心になったら、どんなことでも出来ないことはないてえからねェ、おれは明日《あした》っから茅場町《かやばちよう》の薬師様へ一所懸命信心して、たとえ片一方《かたいつぽ》の目でもいいよ、片一方の目でもいいから、この目を見えるようにしておもらい申すつもりだ」
「どうも様子がおかしいと思ったから……きっとそんなこったろうと……けど、おまえさん、それはいけないよ。信心も結構だけど、金さんだってこれが悉皆《むず》の他人ならそんなばか気《げ》たことを言う気遣いもなかろうけども、そこが親身《しんみ》の兄弟だけに、遠慮がないから、金さんがそう言うんだろう。それをおまえさんがいちいち真っ赤ンなって腹を立てて……それじゃ、あまり大人気《おとなげ》ないじゃァないか」
「じょッ、じょ、冗談言っちゃァいけないよ。おまえはな、兄弟仲を悪くさせめえと、あいつを庇《かば》って、そんなことを言うが、金公なんてえやつァ大体もう、そんな人間じゃァないよ。おれァもう今度《こんだ》てえこんだァあきれけえっちゃった、あんな薄情なやつァないね。よく考えてみれば、あいつが赤ん坊の時分には、おれが背負《おぶ》ったり抱いたりして守りをしてやった。その仮りにもおれァ兄貴だ。その恩を忘れやァがって、いまおれがこういう不自由な身体になったからって、ど盲目呼ばわりするやつがあるかい」
「そうかえ、まァおまえさんがそう思いつめたものを、どう止めたからと言って止まるもんじゃない。けれど、あんまり心配をして、身体でも悪くしちゃァ元も子もないじゃァないか。じゃァ、あたしもおまえさんが信心をすると言うなら、及ばずながらあたしァね、自分の寿命を縮めても、おまえさんの目の開くように信心をするよ。そう怒らないで、今日は疲れてるでしょうから、床をとりますから、今夜は早くおやすみなさいな、ね、おまえさん……」
 お竹が床を敷いてくれて、枕につき横になったが、癇《かん》がたかぶっているので、なかなか眠られない。そのうちに昼間の疲れが出て来て、とろとろ[#「とろとろ」に傍点]ッとまどろむ……。
翌日から杖《つえ》にすがって浅草|馬道《うまみち》の家を出て、茅場町の薬師様へ三七《さんしち》、二十一日の日参。一心に信心をして、ちょうど満願の当日。
「へッ、へッ、へ、薬師様。梅喜《ばいき》でござんす。今日《こんち》は満願でござんす、へッ。楽しみにして参詣《あが》りました。どうぞご利益《りやく》をもちまして、両方いけなきゃァ、ェェ片っ方でよろしゅうござんす……ェ薬師様、お忘れじゃございますまいなァ……ェェ梅喜でござんす。今日は満願でござんす。薬師様、あたくしの目は治らないんですか? ずいぶんお賽銭《さいせん》あげてますがねェ。お賽銭取りっぱなしですか?……ああ、駄目か……。へェ、よろしゅうござんす、へえ、じゃァあきらめました。こうしてください、あたくしもあきらめましたから、思い切りいいように、あたくしひとつ殺しちゃッてください。……さあッ、薬師様、あたくしをひと思いにひとつ殺しちゃってくださいッ、殺しやがれ」
「おい、そこにいるのは、梅喜さんじゃァないか。なんだい、大きな声を出して、おいおい、梅喜さんッ」
「へえ、どなたさまです? あたしをお呼びンなったのは……」
「どなたさま……? おい、おまえ、目があいたね」
「へッ?……なんです? あたくしが? 目……あッ、ああ、目があいた。やあ、見える。見える。薬師様のご利益、只今はとんでもないことを……まことに申しわけございません。薬師様、ありがとう存じます」
「結構だ結構だ。いやわたしはこの間からおまえンところへ迎えにやっても、ちょっとも来てくれない。そんなに忙しいのかと思ったら、なにか目のあくようにこの薬師様へ信心をしていると聞いたから、あァ無理なお願いをと思ったんだが、今日は八丁堀まで用達《ようたし》に来たから、この前やはり家内が薬師様のご利益で眼病が治ったから、ついでと言っちゃァ済まないがお礼詣りと思って来て見ると、どうもお前に後ろ姿が似ているから……声をかけたんだが、いやどうも人の一心というものは恐ろしいもんだなあ。しかしおまえのかみさんのお竹さんは感心だ。自分の寿命を縮めて、ともどもおまえの目の見えるように信心をしているという話を聞いたが、夫婦の一念が届いて薬師様のご利益を受けたのだろう。この先とも信心を怠《おこた》っちゃァいけないよ」
「ありがとう存じます。して、あなたはどなたさまで?」
「どなたって、おまえ今日や昨日の馴染じゃァなし、声でわかるだろう。わたしは馬道の上総屋《かずさや》だよ」
「へえ、上総屋の旦那、ああ、なるほど、目を瞑《つむ》って声だけ聞けば……ちがいありません。旦那ァ、そういう顔ですか?」
「なんだい、そういう顔てえなァ」
「旦那、つかんことを伺いますが、これからすぐにお宅へお帰りになりますか?」
「ああ用達も済んだし、これから家ィ帰るところだ」
「さようでございますか、恐れ入りますが、旦那、あたしを家まで一緒に連れてってくださいな」
「おい、変なことを言うじゃァないか。いままでなればともかくも、目があいたら、一人でさっさと帰れそうなもんだ」
「それがね、旦那、目があいて、やれうれしやと思ったら、さあァどこがどこなんだかまるで見当がつかなくなっちまいました」
「ははァ……なるほど、そう言われてみるとそういうものかも知れない。そいじゃァ、あたしが一緒に行くことにしよう」
「ありがとう存じます。……少々お待ちくださいまし……ああ、どうも立派なものでございますな、毎日お詣りに来てましたが、本堂がこんなに高いとは思いませんでした。おや、なんです。この大きな……こりゃ、なんです?」
「奉納提灯《ほうのうぢようちん》だよ」
「あ、これが、大きなもんですなあ……へェ、ではお供いたします……いやァありがたいなァ……これから家ィ帰ってねえ、家内がねえ、あたしの姿を見てねェ、どのくらい喜ぶかと思いましてねえ。あたくしは、早く……」
「おいおい、おい梅喜さん。どうでもいいがねえ、目ェあいて杖をついてるのはおかしいよ」
「へ? 目……? あッはははは、はは、そうですか、長いこと癖《くせ》ンなってるもんでござんすからね……しかし、旦那のまえでござんすが、この杖にも……長いこと厄介になりました。へッ、あたくし忘れないように、これ、家ィお祀《まつ》りいたしておきます……さァご一緒に参りましょう……旦那、旦那」
「なんだ?」
「あの、あれはなんで……?」
「あれは鎧橋《よろいばし》だ」
「へーえ、ずいぶん頑丈そうですね」
「ああ、鉄橋といって鉄でもって吊ってあるんだ」
「へーえ、いままであたしもあの橋の上を通っていたが、目あきはまたこの辺の心配がありますねえ、いつこの橋が落ちるかわかりません」
「そんな心配はすることはない。落ちやァしないから」
「……ああ、びっくりした、なんです? 旦那、いま前をすうッと行きましたね、なんです、あれは?」
「ありゃァおまえ、人力俥だよ」
「はは、そうですか。あたくしども子供の時分にゃ、あんなものはなかった。よくお竹がね、おまえさん俥《くるま》が危いから気をつけてって言うのは、あれでござんすか。あの上に乗ってるのは女のようですね」
「芸者だよ」
「あれが? そうですか、あたくしにはよくわかりませんけども、いい女のようですね」
「いい女ッておまえ、東京で、何《なん》の某《なにがし》と言う、一流の、指折りの芸者だ」
「つかんことを伺いますが、うちのお竹とどっちがいい女でござんしょう?」
「冗談言っちゃァいけない。比べものになるものか」
「へえー、お竹のほうがようございますか」
「おい、ずうずうしいことを言っちゃァいけないよ。いま行った芸者は東京でも指折りの芸者だ。おまえさんとこのお竹さんは、おまえさんの前では言いにくいが、東京で何人という指折りのまずい女だよ」
「そんなにお竹がまずうござんすか?」
「そうだね。よく悪口に人三化七《にんさんばけしち》なんてえことを言うが、おまえンとこのお竹さんは人《にん》なし化十《ばけじゆう》ってところで、まず人間には遠い面《つら》だな」
「はあァそうですかねえ。そんな女とも知らずに、長いこと夫婦ンなってたんだが、知らないてえものはしようがない。みっとものうござんすねえ」
「しかし梅喜さん、人は眉目《みめ》よりただ心、いくら顔かたちがよくったって、心だてが悪かった日にゃァなんにもならない。おまえさんとこのお竹さんは、心だてから言って東京で何人どころか日本に何人といって指を折ってもいいくらいのもんだ、じつに。話が出たからそう言うが、このまえ、嵐のときに、おまえに療治に来てもらったことがあるね。あのときお竹さんが裸足《はだし》になって、おまえの手を引いて、家まで連れて来て、また帰る時分に裸足で、おまえの手を引いて連れて行った。あとであたしは家《うち》のかみさんに、梅喜の女房というものは感心なものだ、あれを少し見習えよと、いつも叱言《こごと》の出るときには、きっとおまえのとこのお竹さんを引き合いにするくらいのもんだ。第一おまえさんに口返答《つう》を返したことがないてえじゃァないか。おまえも長年連れ添っているから性質もわかってるだろうが、不自由のおまえになるたけ心配をかけまいと、他人《ひと》の針仕事から手内職、寝る目もろくろく寝ないで働いているのは、じつに感心なものだ。ところで似た者夫婦なんてことを言うが、おまえさんとこの夫婦っくらい似ない夫婦はないね。いま言う通りおかみさんは、悪いけど見た目はまずい女だ。反対にまた、おまえさんはいい男ったって、役者だっておまえさんぐらいの男は、いまないと言ってもいいくらい美男だよ。……あ、そうだ、役者で思い出したがね、おまえ、山の小春を知ってるだろ?」
「ェェ存じております。春木家の姐さんでしょ? お療治に伺います。お得意でござんすから」
「あの小春にこの間会った。芸者五、六人呼んで飯《めし》を食って、お約束だ、役者の噂だ。あの役者がいい男、この役者がいい男、役者の噂……そこへ小春がつィと入ってきて、『おまえさんがたはいい男ってえと役者の噂をするが、世の中には役者ばかりがいい男じゃない。家ィ来る按摩の梅喜、あのくらいな男は、あたし、役者にでもないと言ってもいいくらいのもんだ』って、小春がたいへんおまえに岡惚れしてたぜェ。『あれで目があいていたら、あたしゃ放っておかないわ』なんて、おめえのことをたいそう褒めてたぜ」
「ああそうですか。なんですかね旦那、つかぬことを伺いますが、あの小春とうちのお竹とどっちがいい女でしょうね」
「またはじめやがった。一緒になりゃァしないよ」
「はァ、やはり小春のほうがようございますか……あ、旦那、ここは、たいへんに賑やかになって来ましたが、どこです?」
「浅草の仲見世だよ」
「もう仲見世、ちょっと待ってくださいよ。ここは毎日、通ってるんだから……やッやァ、なるほど、そうだそうだ、目を瞑ってみるとよくわかります」
「おいおい、杖でそう叩いちゃァ……みっともないよ。人が笑ってるじゃァないか」
「へッ、相済みません……へえーっ、賑やかですな……変った玩具《おもちや》が出来ましたなあ、ああなるほど……。へえ、これが仁王門《におうもん》ですよ、ごらんなさい。ええ? 旦那、ごらんなさい。鳩《はと》がいます鳩が。可愛いじゃァありませんか、ごらんなさいどうも……ああ、これがお堂だ……ねえ旦那、わたくしはね、いつもこのお堂の下からお詣りをしているんですがね、今日は目があいたから、ひとつ上へ上がってお詣りをしたいと……旦那もつきあってくださいな」
「あぶないよ、大丈夫かい?」
「へえ、大丈夫ですよ。……こうして見ると、どこも立派なもんですねえ。一寸八分の観音様がこんなお堂に入っている。姿は小さくとも知恵はあると見えますね。……どうもありがたいな、どうも……へい、このご恩は決して忘れません。いずれお竹が、お礼詣りに伺います。……南無大慈大悲正観世音菩薩《なむだいじだいひしようかんぜおんぼさつ》……こりゃァたいへんなお賽銭、えらいもんですねえ。ご利益《りやく》があるんで……あたくし一生働いたってこんなにお賽銭頂けやァしませんよ。へえ、旦那お待ちどおさま……旦那、旦那、不思議不思議、ねえ、ごらんなさい、箱ン中から人間が出て来ましたよ」
「箱ン中から人間が出て来るわけじゃァない。姿見だよ。おまえさんとあたしの姿が向うへ映ってるんだよ」
「へッ? これ、あたくし? はァはァ、なるほど……あ、あたしが手を動かせば向うも手を動かす、これがあたしですか、ああ、いい男だ」
「隣がわたしだよ」
「なるほど、旦那はこっちですか? あっははは、まずい面《つら》だ」
「なんだって」
「しかし旦那、がっかりしちゃァいけない。人は眉目よりただ心、心だてさえよきゃ……じつに感心」
「人の真似をしちゃァいけない」
「あっはははは、いやありがたいなあ、自分の姿が自分に見えるんだからな、いままでは自分で自分がわからないんだから、情けねえや……おや、旦那がいないねえ、この人混みだァ、どこへ行ったんだろうね。いまあんなことを言ったから、腹ァ立てて置き放しにして行っちゃったのかな? けど、もうここまで来れば、一人で帰れる。家《うち》は近いからね」
「ちょいと、そこにいるのは、梅喜さんじゃァないかい?」
「へえ、どなたでございます」
「まァ、なんだね、この人は、声でもわかりそうなもんじゃァないか……あたしゃァ山の小春だよ」
「へえッ? あァたが小春姐さん?」
「なにを言ってるんだね」
「ああ、なるほどいい女だ」
「まァ梅喜さん、おまえさん、ほんとうに目があいたのねえ」
「へえ、姐さん、よろこんでください」
「よかったねえ、うれしいじゃないか、ほんとうに。……いまね、上総屋の旦那とそこでお目にかかったんだよ。それで、梅喜さんの目があいたとおっしゃるから、あたしゃうれしくて、お堂にいるってえから、飛んで来ちまったの……ねえ、立ち話も出来ないから、どこかで、お祝いにひと口あげたいから、交際《つきあ》って頂戴」
「へえ、お供いたします」
 浅草寺の富士下に「釣堀《つりぼり》」という待合茶屋があった。そこへ梅喜と小春の二人が入った……。
上総屋の旦那は、先に梅喜の家へ行って目の開いたことを女房のお竹に知らせていた。
お竹は大喜びで、観音様のお堂の姿見の前へ来て見ると、梅喜の姿がない。それから高いお堂から富士下のほうを見ると、亭主の梅喜の後ろ姿によく似た男が芸者と二人連れで待合へ入って行った。あとを追って待合の庭の植え込みの陰に入って、座敷の様子を窺《うかが》うと……。
「梅喜さん、さあ、遠慮しないでもっと飲みなさいよ」
「いえもうなんでございます。どうもねえ、目があいて、ここで姐さんにご馳走になろうとは思わなかったなあ」
「ちっとも進まないじゃァないの。お椀《わん》が冷めてしまうわよ」
「へ、へえッ、姐さん、あたくしァもう、お酒は頂戴しません。ェェお猪口二杯でもう、いい心持ンなりました。姐さん、お椀というのはこれで……へい蓋《ふた》のある椀ですね、わたしどものお椀には蓋なんぞございません。立派なお椀ですね、では、頂戴します……ああどうも旨いなあ……旨いわけだ、中ァ魚だ。あたくしどもァ奢《おご》ったところで菜っ葉か豆腐ぐらいのもんです。前にある、これ、なんです?」
「それは鮪《まぐろ》の刺身だよ」
「へえー、このお刺身の色気は、あたしゃあ、どっかで見たことがござんす……ああ、そうだ奉納提灯とおんなしで……色気てえものは、まことにどうも……」
「艶消しなことをお言いでないよ」
「あッはは、相済みません」
「まァ梅喜さん、おまえさん、目があいてその代わり、これから罪つくりだよ」
「へえー、なんでございましょう」
「いえさ、あたしァねえ、おまえさんに長いこと岡惚れしてるんだよ。いくらあたしが惚れたって、おまえさんにゃァ、立派なおかみさんがあるからつまらないやね」
「へッ、立派なかみさん? いままで知らなかったから持ってたものの、よく聞いたら、人《にん》なし化十だってんですよ、あなた。目が見えれば、そんな女房と一緒ンなっちゃァいられませんよ」
「それじゃァおまえ、いまのおかみさんと別れるつもりかい?」
「ェェ、つもりもなんにも、化物みたいなのァ、みっともなくて、女房にしておくわけにはいきません」
「じゃァ梅喜さん。あたしを女房にしておくれでないか」
「姐さん、ほんとうですか? からかっちゃァいけませんよ。あたしゃァ、あなたのようなきれいな女が女房になってくれればねェ、あたしゃァうちの化けべそァ、いますぐ叩き出しちまわァ」
一杯機嫌の高調子。……それを植え込みの陰で聞いていた女房のお竹、いきなり座敷へ馳け上がって、梅喜の胸倉へ食《くら》いついて、
「やいっ、おまえぐらい薄情な人はいない、人に長らく苦労ばかりさせて、いまになって、目があいたら、あんな女房はすぐ叩き出すとは、悔しいっ、殺してやるッ」
「お、おっ……お竹……かっ。おれが悪かった、勘弁してくれ……おッ、苦しいッ……」
「ちょっとおまえさん、おまえさん……どうしたんだよ。……おまえさん、おまえ……」
「おい、おれが悪いって、謝ってるじゃねえか……お、お竹……おまえ、いま、おれの喉《のど》を締めやァしないかい?」
「なァに言ってるんだねェ、この人は。あたしゃァ台所で水仕事をしていると、おまえさんがあんまり魘《うな》されてるから、飛んで来たんだけど、おまえさん、なんか恐い夢でも見たんじゃァないの?」
「ええッ?……ああ、あ、夢か……」
「さあ、おまえさん、朝飯《あさごはん》を食べたら、昨晩《ゆうべ》の約束どおり、これから二人で茅場町の薬師様へお詣りに行き、おまえさんの目のあくように、ともども信心しようよ」
「お竹、おれァもう信心はよすよ」
「昨日まで思いつめた信心を、なんでおまえさん、今日ンなってよす気になったの?」
「へッへへへへ……盲目《めくら》てえものは妙なもんだ、眠《ね》ているときだけ、よォく見える」
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