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輪(RINKAI)廻11

时间: 2019-11-21    进入日语论坛
核心提示:     9 夜、風呂にはいる時、真穂のからだを隅から隅まで眺めまわすことが、いつしか日課になった。それが自分でも情けな
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     9
 夜、風呂にはいる時、真穂のからだを隅から隅まで眺めまわすことが、いつしか日課になった。それが自分でも情けなく、惨めに思える時がある。以来、からだの上に時枝の仕打ちを示すものは見当たらない。真穂には、自分にだけは何でも正直に言うようにと言い聞かせてある。けれども、真穂も頑ななところのある子供だ。何事もなかったし何事もない、そう言い続けてきかない。こちらもまたひと筋縄ではいかない。西納の家での七年間で、心のどこかが結ばれたまま、いまだほどけずにいるのだと思う。それでも香苗が執拗に問うと一度だけ、真穂はひどく大人びた、それでいてどこか胡乱《うろん》な目つきをしてぽつりと告げた。
「人が変わるんだよ」
「人が変わる?」
真穂はこくりと頷いた。「別の人間が出てくるってこと。病気なんだ。かわいそうなおばあちゃん」
それ以上は、どんなに訊いても詳しく言わない。だから香苗もそれだけの言葉から推測するよりなかった。人が変わる、別の人間が出てくる……真穂が言っているのはつまり、時枝の人格が変わるということか。いや、実際に変わっている訳ではないのだが、真穂の目にはそう映るということか。家の中でいかなる場面が展開する時があるのか、どうして家の空気が張りつめる時があるのか、真穂の言葉は朧《おぼろ》げながらもその答えを示しているような感じがした。夜叉か仁王の如き顔をして、真穂の前に立ちはだかる時枝。持ち前の低くていくぶん掠れた声に一層の凄味をきかせて、真穂を怒鳴り飛ばす──。とはいえ、孫にそんな恐ろしい顔を見せる必要がどこにあるのか。真穂の言葉によるなら、「病気」ということになるのだが。だとすれば、それは子供が嫌いという病気だ。
「また、子供のこと考えてるのか?」
城下の言葉に我に返る。城下はベッドに横たわったまま、煙草をふかしていた。まだ服は着けておらず、白いブランケットカバーから、裸の胸が覗いている。
「香苗ちゃんは本当におかあさんなんだな」
香苗は苦笑に近い笑みをうっすらと顔に浮かべながら、ブラウスのボタンをはめて襟元を整えた。
どうしてこの男と関係を持つに至ってしまったのか……ふとそれを考える。ほんの気の迷い、そういってしまえばそれで済んでしまうような気もした。別にこの男に恋心を抱いた訳ではない。狭いマンションの部屋の中、城下と二人きりでいることに息苦しさを感じているよりも、一気に垣根を飛び越えて、男と女になってしまうほうが楽だったことも事実だ。要は流されただけかもしれないが、そこにある種打算めいたものが働いていたことも否めなかった。今はこの程度のことしかしてやれないけど、いつか必ず真穂ちゃんとの生活が成り立つだけのことはしてやりたいと思っているから──、そんな城下の言葉に、からだを与える形で保険をかけた。しかし、考えるまでもなくこんなことは、保険にも何にもなりはしない。男は切り捨てようと思ったら、からだの関係があろうがなかろうが、いつだって平気で女のことを切り捨てる。それがわかっていても、香苗は何かに縋りたかった。藁にも縋るとはこのことだ。
当初香苗は、この男が何をして金を稼いでいるのかがよくわからなかった。だが、ふた月間近で見ているうち、おおよそのことがわかってきた。城下は、アドマンではなくいわゆる総会屋の手先のようなもので、表立って動けない彼らに代わって、企業から広告料を集めている。現実に企業の広告を載せた月刊誌を出してはいるのだが、あれは形ばかりのもの、ほぼパンフレットに等しい薄っぺらな内容でしかない。その金を仕手筋にまわしたり、仕手戦に関わる裏情報を集めたり流したり、株式相場にも一枚噛んだ仕事をしている。香苗は、株の世界のことは何も知らない。けれども、簡単に人の人生を左右するほどの金が動くものらしい。人の命を左右する金が、と言うのが正しいのかもしれない。読んでも読んでも読みきれないのが株価と為替、だから城下も事が思った方向に流れていかないと、追いつめられた人間の顔を見せる。マンションの部屋の窓から外を眺めながら、下手すりゃ二、三日うちに、ここから飛び降りなけりゃならないかもな、と呟いてみせたこともある。城下が相手にしている人間は、確かに普通の世界の人間ではない。ひと癖もふた癖もある、穏やかならざる世界の住人たちだ。彼らも城下も、世の常識とはかけ離れた、別の常識の中で生きている。
城下が香苗と関係を持つに至ったのも、香苗同様、そこに色恋の感情があったからではなく、きっとそんな暮らしのせいだった。一緒に仕事をしていればどうしても、秘密に関わる部分のことを共有せざるを得ない。となれば城下の側にしてみれば、からだの関係を持っておいたほうが安心できる。からだで口を塞ごうという男の打算。それに半ば命懸け、ぎりぎりみたいな毎日を送っていると、身の内にもやもやが募って充満する。それを解消する一番の方法が女を抱くこと。香苗は城下と実際に寝てみて肌身で感じた。城下は男としてはたぶん、くどくしつこいタイプだと思う。自分が内に抱え込んでいるものを、すべて女のからだにぶつけ、一滴残らず吐き出してしまわないことには納得しない。女のからだは、そのための道具みたいなものだ。香苗は一度寝ただけで、そんな城下のセックスに疲労感に似た失望を覚え、この男に何かを期待するのは間違いだと悟った。にもかかわらず重ねて関係を持っているのは、たぶん自分の寂しさや不安を紛らわそうとしているだけのことだった。
時計を見た。ホテルでうかうかと時を過ごしているうち、ふだんならば既に家に着いていてもよい時刻になってしまっていた。いつもよりも一時間以上は帰宅が遅れる計算になる。何が本当におかあさんだ、何が真穂のことが心配だ、やっていることはと言えば正反対──、胸の内で、香苗は自分自身を罵った。
「じゃあ私、先に出ますから」
身支度を完全に整えると、香苗はベッドの中の城下に向かって言った。顔はもう、さほどじっくり見なかった。
「おう」城下は、身を半分横たえたまま片手を差し上げた。「俺、明日は、事務所に顔を出すのは午後になるから」
「わかりました。何かあったら携帯呼びます」
ホテルを出ると、一度家に電話を入れた。まっすぐ家には帰りたくない気分だった。体《てい》よく言えば、城下に抱かれたばかりのよれたからだで、すぐには時枝や真穂と顔を合わせるのが憚《はばか》られた。電話には時枝が出た。時刻も時刻だし、そろそろ先に夕飯にしようかと思っていたところだと言う。
「そう。まだ私、ちょっと時間がかかりそうなの」香苗は言った。
「真穂ちゃんの分もあるよ。だから別に夕飯のことは心配しなくていい」声にとりたてて温かみはなかった。かといって突き放すような冷たさもなく、時枝の口調はごくあっさりとしたものだった。
「それじゃ私、一軒寄り道してから帰ろうかな」香苗は言った。「少し遅くなるって、真穂にも言っておいて」
本当のところ、行くあてはなかった。が、新大久保の駅まで帰ってきてから、春山の事務所に顔を出してみることを思いついた。いなければいないで構わないと思った。訪ねてみると、果して彼はまだ一人で事務所に残っていた。
「おう、山上。やっと顔を見せたか。まあ座れよ」
事務所の応接セットは黒の革張りの大きなもので、見るからに大仰という感じだった。象嵌《ぞうがん》の施された艶々と光った衝立《ついたて》、金色の額縁にはまった壁の宝石画、サイドボードの上の大絵皿……あまりよい趣味とは言いかねた。やはり普通の事務所とは雰囲気が違う。香苗はO町で一度訪ねたことがある、右翼の事務所を思い出した。あそこには日の丸と虎の敷皮があったが、春山ならば喜んで敷きかねない。革張りのソファに腰を下ろすと、香苗はもう少しでお尻が沈み込みそうになった。
「お、ちょっと東京の水に浸かったら、色っぽさが出てきたじゃねえか。はあ、さてはもう男ができたな」
香苗は渋い顔を拵えて春山を睨んだ。この手の男はその種のことに勘がいいし、かまをかけるのもうまい。
「褒め言葉だよ、おっかない顔するなって」春山は笑った。「で、仕事のほうはどう?」
「どうって言ったって、ただの事務……ううん、電話番だもの」
「それじゃろくな金にならねえだろ?」
香苗はあえて春山の顔は見ず、黙って小さく頷いた。
「仕事、あるぞ。ホテルの客室管理の仕事なら。ああいうホテルは二十四時間フル稼働だから、どうしてもシフト勤務になって、常に昼勤とはいかないけどな。そのぶん今の仕事よりはいい金になるんじゃないかな」
ありがとう、と香苗は言った。大久保のラブホテルの客室管理。正直、あまり気乗りのする仕事ではなかった。むろん、今は選り好みをしていられる立場ではないとわかっているのだが、もう少し城下の事務所で働いてみようという気持ちが残っている。ひょっとすると香苗は心の中で城下にケチをつけながらも、一方で棚からぼたもちのようなことを期待しているのかもしれなかった。あの手の仕事は、大きく当たるとはいってくる金も桁が違う。
「だけど今の仕事、紹介してもらった手前、すぐにやめるという訳にもいかないから。もうしばらくそこに勤めてみて、そのうえでまた相談にくるかも。その時は春山君、よろしくね」
「わかった。お前一人の仕事ぐらいなら、いつでも何とかしてやるって」
これでさらにひとつ保険をかけた。今の春山ならその力があると踏んで、いざという時に困ることのないよう顔を繋いだ。だんだんと、自分がいやな女になっていくような気がした。城下と寝ていることなど、考えようによってはからだを売っているようなものだ。それではこの街に巣喰っている娼婦たちとたいした違いはない。大久保に戻ってきて三ヵ月、早くも香苗はこの街に滞留する人々の意識に感化され始めている。大久保のムードに流され、染まっていくのが我ながらおぞましい。
「何だよ、浮かない顔しちゃって。山上は何でも真面目に考えすぎるんじゃねえか? 世紀末のこの日本、これまでの常識にとらわれていたら生き残れないぜ。風見鶏とおんなじだよ。その時その時の風を見て、いい加減にふらふらしながらバランスとっていくのが勝ちさ。わかるか? フライングスタビリティーよ」
春山は、小学校、中学校を通じて成績は悪かった。けれども人の心を見透かしたようなことを言うし、生きていくうえでの知恵も力も持っている。もしかすると本当に頭がいいというのは、こういうことをいうのかもしれなかった。
「やっぱり男の人って変わるのね。春山君がこんなに立派になるなんて、子供の頃は思わなかった。そうとわかっていたら、春山君と結婚していたのに」香苗は言った。
「馬鹿、こっちが断るぜ。顔は似ていなくても、何せあのかあちゃんの娘じゃな」
むろんそれは冗談だろう。それでも胸にちくりと刺さるものがあった。
「そう言えば、作田のおやじ、めっかったよ」
「え? あの人、まだ大久保にいたの?」
「また大久保にきたの、って言うのが正しいな。もっとも、今住んでいるのは市ヶ谷のマンションだけどな。あのおやじ、新潟の出身なんだな。金ができてちょっとゆっくりしたくなると新潟に帰って、うまいもの喰ってうまい酒飲んで……それでまた金を作りに大久保に出てきやがる。優雅な出稼ぎ労働者だぜ、まったく」
「新潟……あの人、新潟の出身だったの」
時枝の故郷も新潟だ。偶然ではないような気がした。時枝と作田は、東京に出てくる前からの知り合いではなかったか。そう考えると、二人の長年のつき合いにも納得がいく。少なくともこの大久保でどこの誰だかわからぬ相手と組むよりは、素性のわかった相手と組むほうが安心できる。だとすれば、香苗が知っている人間の中で、作田が最もよく時枝のことを承知しているということになる。時枝の原点とも言える部分を承知している男。
「作田さん、市ヶ谷のどこにいるの?」
「何だよ? 山上、作田のおやじに会いにいくつもりかよ?」
「うん……。何だか急に話がしたくなった」
「ああいう人間だからな、勝手に居どころを教えていいものかどうか……。二、三日うちにいっぺん会うことになっているから、お前が会いたがっていたって言っておくよ。それでおやじがいいって言ったら教える。だから四、五日したら、ここか俺の携帯に電話くれよ」
「うん、わかった」
もしかするとまったくの錯覚かもしれないが、不意に何かが見えつつあるような気がしていた。いずれにしても香苗は、自分が知らなくてはならない時期に差しかかっていることを感じていた。時枝のこと、自分のこと……思えば香苗は自分の父親のことさえ、何も知らないままだった。首藤修──、かろうじて知っているのはその名前だけだ。時枝が、自分が、どこのどういう人間なのかを知ることは、真穂のことを知ることにも繋がる。真穂は間違いなく香苗が生んだ香苗の血を引く子供だ。その子がどういう血筋の末端にいるのかを知っておくことは、この先香苗にとっても真穂にとっても意味あることだろう。現在が見えないのは、過去を何も知らないから。知れば少しはこの迷路の道順も、見えてくるのではあるまいか。
「これまで私、本当にぼんやり生きてきたんだなぁ……。何も考えず、何も見ず、何も感じず」
呟くと、春山が艶のある目をして笑っていた。そしてぽんぽんと、半分励ますように香苗の肩を叩いて言った。「おい、とにかく飯、喰いにいこうぜ。俺、腹空いた。今日は俺が、何かうまいもの奢ってやるからよ」
春山の言葉に、香苗は薄い笑みを浮べて頷いていた。
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