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輪(RINKAI)廻27

时间: 2019-11-21    进入日语论坛
核心提示:     21 真穂の夏休みも終わろうかという頃、香苗は真穂を連れて「大久保東レジデンス」を出た。移り住んだのは2DKのア
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 真穂の夏休みも終わろうかという頃、香苗は真穂を連れて「大久保東レジデンス」を出た。移り住んだのは2DKのアパート、ただし大久保からは離れなかった。真穂は新しい学校に馴染んだばかり、また学校を替わりたくはなかったし、同じ大久保にいれば、暇を見つけて時枝の様子を見に行ける。当分は時枝から経済的な援助を受けないことにはやっていけないようなありさまだ。しかし、今度はもういつまでも時枝に甘え続けるつもりはなかった。引っ越して間もなく、香苗も仕事を始めた。最後の手段と考えていたことだが、春山のところへ行って頭を下げ、彼の事務所で事務員として雇い入れてもらったのだ。それを知って時枝は渋い顔を見せた。春山も、親子代々大久保の街で喰ってきた人間だ。その種の人間を、時枝は信用していない。喰うか喰われるか、それがこの街での長年にわたる時枝の日常だったのだろう。
引っ越すことに決めたと告げると、真穂はおばあちゃんと一緒のほうがよかったのにと、不満げに頬を膨らませた。あどけなささえ感じさせるその顔が、逆に香苗を寒々とした気持ちにする。この子は、自分の面《おもて》にいちのが出ている時の記憶がない訳ではない。自分が抵抗できない時枝を責め苛《さいな》んでいたことも、きっと承知している。恐らく真穂にとってはそれが、楽しいお遊びだったのだ。自分の身を打ちつけ傷めても、脅え戦《おのの》く時枝の姿を見るのが面白かった。いや、それは真穂ではなくいちのの性分、底意地の悪さ……つい冷やかな目を真穂に向けてしまいがちになる自分の心を香苗は戒める。時枝と離れて暮らすうち、真穂の中のいちのが完全に消えてしまわないまでも、眠りについてくれたらよいのだがと、香苗はそれを願わずにはいられなかった。
仕事をするに当たってひとつ心配したのは、春山が作田と組んだ仕事をしてはいないか、ということだった。そのことは、勤める前に確かめた。春山は、香苗に対して顔を顰《しか》めて首を横に振った。
「あのおやじ、根っから小狡いからな。信用ならないことこのうえねえ。そのうえ妙に慎重で、人には切れそうな綱を渡らせても、自分じゃ絶対に渡ろうとしない。──やめたよ。あのおやじに一枚噛ませたら、こっちが割りを喰うだけのことだ」
春山は、まさに作田という人間を見抜いたようなことを言っていた。この街で喰っている人間は、金ばかりにでなく、人間に対しても鼻が利く。
香苗が仕事を始めたので、学校から帰ってもしばらく真穂は一人ぼっちだ。それも仕方がない。大久保だけでなく世の中には、それを余儀なくされている子供たちが大勢いる。真穂にも我慢してもらわなければならなかった。
 時枝のところを出てから、ほぼ平穏な二ヵ月が過ぎた。時枝とは時々会って話をしている。昼休みに外で待ち合わせて、昼食をともにすることもある。時枝は香苗に、そのうち自分の喫茶店をやったらいいと言う。今は赤井と里美の二人に預けたばかりですぐに返せとは言いづらいが、折を見て二人に話をするし、別の活路も見つけてやるようにする。そうしたら今度は香苗が好きなように店の体裁を整えて、やりたいように切り盛りしていけばいい。何でも私が教えてやるから──。
時枝の言葉で、香苗も先に希望の光が見えたような気持ちになった。店を一軒持っていたら、真穂を育てながら食べていくぐらいのことはできるだろう。真穂を私立の大学に入れてやることだってできる。恐ろしい因縁を背負った子供かもしれないが、真穂は香苗がお胎《なか》を痛めて産んだ子だ。
春山の事務所は、正式には「ハル・エンタープライズ」という。そこでの香苗の仕事は五時半までだ。旧友ということで、こもごも融通をきかせてもらっている。本当は、パソコンが扱えないようでは事務には雇ってもらえないところだったのだが、それもおいおい勉強してくれればいいやと、春山は半ば致し方なさそうに頭を掻いて譲歩してくれた。だから香苗はここに勤め始めてから、まるで給料をもらいながらパソコンの勉強をさせてもらっているようなものだった。慣れないパソコンに向かっていると、からだの芯まで疲れが滲み込んでくるが、そのぶん時間が早く過ぎていくのがよい。季節は既に秋に移行している。その日も夢中になってパソコンに向かっていると、気づいた時には窓の外が薄暗くなっていた。
「山上さん、お電話です」
竹内好美という名前のアルバイトの女子大生が、電話を受けて香苗に言った。アルバイトとはいえパソコンの扱いは、香苗などとはくらべものにならないぐらいに長けている。
「三番。荻野さんという方からです」
荻野と言われても一瞬ピンとこなかった。が、すぐに「大久保東レジデンス」の管理人だと思い至った。
「もしもし、山上です。いつも母が何かとお世話になりまして」受話器を取って香苗は言った。
「あ、香苗さん」
ひと声耳にしただけで、荻野の声に切羽つまったものがあるのがわかった。唐突に、しかも一気にいやな予感が胸にひろがる。
「驚かないでくださいよ。山上さんが、お母さんが、ベランダから下に転落して、今さっき救急車で病院へ運ばれたんです」
人は悪い報せを告げる時に、決まって「驚くな」と前置きする。その言葉自体が既に不吉だった。転落、救急車、病院……頭の中でさまざまな思いと時枝の顔とが交錯して、思考がまったくまとまらない。香苗は、一瞬のうちに完全に動顛しきっていた。
「病院……」香苗は箍《たが》がはずれたようになった頭を抱えたままで呟いた。「どこの?……」
「新宿第一救急病院です。香苗さん、できるだけ早くいってあげたほうがいい」
「それで母の、母の様子は?」
「──あたしには何とも。しかし四階からじかに下のコンクリに落ちた訳だから」
荻野ははっきりとは言わない。けれどもその口調から、決して楽観できる状況でないことは察しがついた。
「だけどベランダから落ちるなんて……どうして」
「それがあたしにもわからないんですよ。女同士、何か言い争うような声を聞いたというようなことを言う人もいるけど、テレビの音かもしれないとも言っているし」
女同士言い争うような声。灰色どころではない。たちまちにして香苗の胸に、真っ黒な雲がいっぱいにひろがる。
「わかりました。すぐに病院へ行くようにします」
そう言って電話を切ると、香苗は大慌てで事務所を飛び出した。ビルを出てすぐにジャケットを着忘れてきたことに気がついたが、取りに戻る気にはなれなかった。下の通りからタクシーを拾って、すぐに車に乗り込む。
時枝がベランダから落ちた。住み慣れた部屋の、ちゃんと手摺りのあるベランダから。転落……いちのと同じ痛み、苦しみ。香苗は時計を見た。五時十分前。当然真穂は学校から帰ってきている。時枝が落ちたのが今から三十分前だとしても、一時間前だとしても、どちらでも学校が終わっている時刻であることに変わりはない。真穂には、おばあちゃんのマンションへ行ってはいけないと言ってある。時枝にも、真穂が行っても中には入れないでくれと頼んである。しかし二人がそれを、百パーセント守るかどうかはわからない。ことに真穂は。頭がくらくらとした。
香苗はバッグから電話を取り出し、自分のアパートに電話を入れてみた。四回ばかりコール音がして、「もしもし」と真穂が出た。
「あ、真穂? おかあさんだけど」
「ああ、おかあさん。どうしたの?」
「真穂、今日学校から帰ってきてから、おばあちゃんのところへ行った?」
「ううん、行かないよ」
「ううん」と言う前に、一拍間があったような気がした。加えて声の妙な素っ気なさが、かえって気にかかる。
「本当?」
「本当だよ」
「本当に本当ね」
「本当だって。──どうしてそんなこと訊くの?」
「おばあちゃんね、怪我をしたのよ。それでおかあさん、今おばあちゃんが運ばれた病院に向かっているところなの。だから帰りは少し遅くなると思う。途中必ず電話を入れるから、うちでおとなしく待っていて。約束よ」
「わかった。怪我をしたって、おばあちゃん、死んじゃうの?」
「……それはわからない。おかあさんは、きっと大丈夫だと信じているけど」
「でも、四階から落っこちたら、やっぱり死んじゃうかもね」
いきなり心臓に冷水を浴びせかけられたような衝撃があった。手先足先にまで、瞬時に電気が駆け抜ける。
「四階から落ちたって、真穂……」
小さな携帯電話から、例のキョキョキョキョというホトトギスの鳴き声のような高笑いが聞こえてきた。いや、ホトトギスではない。鵺《ぬえ》だ。そして電話は高笑いを響かせたままぷつりと切れた。真穂が切ったのか、それとも電波が途切れたのかはわからない。しかし香苗は、改めてかけ直すだけの気力を失っていた。
まさか……口の中で小さく呟く。いくら何でも真穂が時枝を突き落とすなどという恐ろしいことが、現実に起きる訳がない。第一真穂はまだ身長百三十センチかそこらの非力な子供だ。仮に突き落とそうとしたところで大人の本気の抵抗にあえば、それをなしうる訳もない。そうよ、まさかよ……呟きながらも心の底ではかなりの割合で、その可能性を認めている自分がいる。真穂は並みの子供ではない。あの気味の悪い鳥のような笑い声が、それを明かしている。
「お客さん、大丈夫ですか? 具合が悪いんなら、どこか途中でいっぺん停めましょうか?」
バックミラーで見てもひどい顔色をしていたのにちがいない。目だけをミラーに映して運転手が訊いた。
「いえ」香苗はぐったりとしたからだを立て直しながら言った。「大丈夫です。だから病院に急いでください」
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