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輪(RINKAI)廻32

时间: 2019-11-21    进入日语论坛
核心提示:     26 香苗は、東京に戻る荷物をまとめていた。またしても夢破れた、そんな思いはあったが、絶望感はなかった。刑務所に
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     26
 香苗は、東京に戻る荷物をまとめていた。またしても夢破れた、そんな思いはあったが、絶望感はなかった。刑務所にはいることを思えば、こっちのほうがどれだけかよい。
ちずは、死んだ。
頭を打ってしばし気を失った後、気分が悪くなって胃の中のものを吐きかけたのだ。が、まだ意識が朦朧としていたものだから完全に吐き出すことができず、気管につまらせ窒息した。香苗があの時放置しなかったら、ちずは命をとりとめていたにちがいない。
朝早くにちずの部屋を覗いた民枝が、既に体温を失ってしまったちずを見つけた。叫びに等しい声を張り上げて報せに来たのを受けて、香苗はまず日立にいる治一郎と誠治に連絡を入れた。治一郎は、自分が桑原医師に電話を入れるから、何もしないで彼を待て、と指示した。間もなく家へと駆けつけた桑原はちずを診断し、治一郎と誠治の帰りを待ったうえで病死との判断を示した。順調に回復しているように見えても、大病の予後というのは変調が起きやすい。夜中に気分が悪くなって戻したのだが、それを口の外に吐き出すだけの力がなかったのだろうと桑原は言った。ただ民枝だけが青い顔をして、そんな馬鹿な、と一人首を横に振り続けた。だが、それも長いことは続かなかった。大方治一郎が、民枝に因果を含めたのだと思う。家の中で何が起きたのか、ちずがどうして死んだのか、その本当のところは治一郎にもわかってはいない。が、事実がどうあれ、死んだものは死んだのだ。それをもとに戻すことができない以上、先のことを考えていくよりほかない。万が一そこに事件性があれば、どうしたって騒ぎは大きくなるし、家にも自分にも傷をつける結果を招く。治一郎は正確に真実を見ることよりも、状況の悪化を回避することのほうを選んだ。いかにも現実家の治一郎らしい判断といえた。
誠治はといえば、彼を迎えた香苗の様子から、何事かがあったということは察しがついていたと思う。桑原医師も、本心からちずの死因に不審を抱いていない訳ではなく、それを治一郎や誠治に対してだけは告げているはずだ。しかし誠治も治一郎に倣って、何も触れようとはしなかった。その代わりに、香苗に対する視線は日に日に冷えていった。何もなかった、あれは病死だ──、いかに頭でそう思おうとしても、肌がそれを納得できずにいる。香苗がちずを殺したという思いは、日ごと誠治の中で確信に近いものに育っていったのだと思う。彼の瞳の色が告げていた、人を殺した女、それも実の母親を殺した女を妻としては愛せない。一人の女としても愛せない。
人が死んでも選挙は来る。それからしばらくは、葬式、四十九日、納骨という法事に加え、選挙という戦争があったから、目のまわるような慌ただしさの中で時は過ぎていった。香苗には、その目まぐるしさが救いだった。
治一郎は、無事再選を果たした。ただし、トップ当選ではなく三位当選。これは彼にとっては敗北を意味していた。そこにもちずの急死の影響が出ていた。人の口に戸は立てられない。悪い噂はすぐ広がる。病死という名の不審死。人は憶測を交え、声を潜めてあれやこれやと噂した。その噂の中核をなしていたのが、香苗がちずを殺したという憶測ではなかったか。あの晩家にいたのがちずと香苗と真穂の三人だったということは、かなりの人間が承知している。人を殺すなど、子供にそんな真似ができるはずがない。とすれば、容疑者も犯人も残る一人よりほかにいない。人はかつてちずと香苗の間に確執があったことを承知している。東京から戻っても、ちずの面倒は人任せ、下の世話はもちろん食事の世話さえしていなかったということも。
敗北を喫した治一郎の機嫌は、当然のように芳しくなかった。当選の祝い酒も、彼の口には苦いものに感じられていたにちがいない。彼がいつもよりも血ののぼった赤鬼のような顔をしていたのは、むろん酒のせいばかりではない。彼は、半ば吐き捨てるように香苗に言った。よもやこんな形で足をすくわれようとはな。人間、一度落ち目にはまったらどうにもならない。物事すべて悪い方へと転がり出す。疫病神というものはいるものだ──。
もはや夫にも愛されていない。義父にも忌み嫌われ始めている。この家に、香苗の居場所はもうなかった。西納の家のためにも、香苗は出てゆくべきだった。香苗がいては、周囲の人はちずが死んだ時に抱いた不審を、なかなか忘れることがない。しかし香苗の姿が消え、誠治が新しい妻を娶り、子供が生まれ、育っていけば……それに押し流されるように悪い記憶も薄れていく。この地に、香苗の匂いを残してはいけない。禍根を残してもいけない。かつての時枝と同じ決断。
禍根──、まさに真穂は災いの子だった。この子のために、香苗はいつも落ち着き場所を失ってしまう。真穂という幼い娘を抱えているのか、いちのというどうしようもなく癖のある老婆を背負い込んでいるのか、自分でもよくわからなくなってくる。そのぶん少しずつ真穂に対する愛情が、香苗の中で目減りしていく。いちのが紡いだ罠のような因縁の糸は、これでもう断たれたのだろうか──、真穂を見ながら香苗は思う。このうえもしもまだ因縁の糸が自分に絡んでくるようならば、もはや堪えられない気がした。次は香苗自身が、ぶつりと音を立てて切れてしまうかもしれない。姑殺し、祖母殺しでは済まない。今度は子殺しという大罪を、自分が絶対に犯さぬという自信はなかった。ひょっとすると、それが最もよくない最後の因縁の糸なのかもしれない。
「おかあさん、今度はどこへ行くの?」
香苗と同じように自分の荷物をまとめながら、真穂が尋ねた。
「東京。前と同じ大久保よ」
「大久保? それじゃおばあちゃんが住んでいたあのマンションに住むの?」
香苗は首を横に振った。「ううん。あそこはもう引き払ってしまったもの。前のマンションでもアパートでもない、別のところ」
時枝が人に任せていた喫茶店は、時枝が死んだ時点で、一年以内に閉めて明け渡してもらうよう頼んであった。赤井というマネージャーからは、この八月で店仕舞いにするからと、香苗のところに連絡がはいっていた。香苗は、その喫茶店を自分でやってみるつもりでいた。教えてくれるはずだった時枝がいないというのは心細いが、最初は誰もが素人だ、やってやれないことはあるまい。今度こそ自分の足で立ち、自分の手で食べていくだけの金を掴むのだ。
「大久保か……ま、大久保も悪くないね」真穂が言った。
「真穂はこっちへ帰ってくる時は、こっちのほうがいいみたいなこと言っていたじゃないの?」
「だっておばあちゃまも死んじゃったしさ、こっちにいたって、もう面白いことは何もないよ」
ひとりでに心が冷え込んで、身から力が失せていく。人が苦しんでいる姿を見るのが面白い、人を苦しめるのが面白い、この子はそういう子──。
香苗は大きくひとつ息をつき、再び荷物を整理する手を動かし始めた。もう余計なことは、何も考えたくなかった。かつての時枝のように、この先自分が食べていくための金を得ることだけを、ひたすら考えようと思った。
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