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暗鬼19

时间: 2019-11-23    进入日语论坛
核心提示:     19 ──これが、嫁になるっていうことなんだ。結局、大切なのは妥協すること。そう、これは妥協に他ならない。安心と
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     19
 ──これが、嫁になるっていうことなんだ。
結局、大切なのは妥協すること。そう、これは妥協に他ならない。
安心と不安、弛緩《しかん》と緊張が交互に訪れる日々の中で、法子の神経は自分でも気づかぬうちに次第に追い詰められていた。疲れきった頭の片隅で、とりあえずそれだけは理解した。
妥協で結構、それで構わないではないかと思う。もはや、それ以上に必要なものはないという気がする。もう、一人で心を惑わされ、ジェットコースターにでも乗っているみたいに、上げられたり下げられたりするのはたくさんだ。そもそも、他人の家庭に入り込み、それまでの自分の人生とは全く異なる生活にとけ込もうというのだ。妥協しなければ、にっちもさっちもいかなくなるに決まっている。
──とにかく、悪い人達じゃない。
おかしな疑念にとり憑《つ》かれるよりも、まずそのことだけを信じるべきだった。あんなに泣いて、法子の身を案じる人々を、もうこれ以上傷つけてはならない。法子はそれだけを自分に命じた。
そして翌日、法子は半ばぼんやりとした精神状態のままで、いつもの通りに九人分の洗濯と広い家の掃除をこなした。途中で、手分けをして動き回っている公恵やふみ江と日常の会話を交わしもしたし、綾乃とも芸能界の某の噂《うわさ》なども話し、時には健晴に意味不明なことを言われながら、半袖《はんそで》から出ている腕に涎《よだれ》をつけられて遊びもした。
「おねーちゃん、ばかナス食べた?」
「そんなの──食べないわ」
「食べない? 僕、食べちゃおうかなあ?」
健晴は、自らの涎で顎《あご》を光らせながら、身体を傾けてうふふ、と笑う。法子は「そうねえ」と答えながら、この子の将来は誰が面倒を見るのだろうと考えた。
──でも、駄目。考えないことよ。考えないの。とにかく、今は綾乃がいるんだから。
昼食には武雄と和人を除いた全員で、ふみ江の部屋で冷やし中華を食べた。ヱイのことは、綾乃がおぶって運んできた。法子はふみ江を手伝って、松造にも食事をさせた。松造は、ああ、うう、を続けながら、食欲は旺盛《おうせい》らしく、朝晩丁寧にふみ江が磨いてやっている歯で、案外しっかりと冷やし中華を食べた。
そして午後、健晴と綾乃は昼寝をし、ふみ江も松造の部屋に戻っていた時刻、公恵が買い物にいっている間に、法子はヱイから「ご褒美《ほうび》」をもらった。ちんちん、という、いつものヱイの部屋のベルが鳴り、小走りに渡り廊下を歩いた末に、突然大きなエメラルドの指輪を渡されたのだ。法子は「まあ」と言ったまま、しばらくは息を呑んで、その大粒の宝石に見入ってしまった。それから、あまりに物欲しげに見えただろうかと慌てて、急いで「こんな物をいただく理由はありません」と言った。
「理由がないものかね。法子は、あたしたちの家族なんだから」
ヱイの痩《や》せ枯れた手に、小さな宝石箱の中で輝くエメラルドは、それだけでも重そうな印象を与え、いかにも不似合いだった。浴衣《ゆかた》の襟元から伸びる皮膚のたるんだ首は、だいぶ髪の薄くなっている頭を支えているだけでも大儀に見える。しょぼしょぼとした目を法子に向け、頬《ほお》にも深い皺《しわ》を幾本も寄せて笑うヱイは、どこから見ても痛々しい程に年老いていた。その年齢だけでも脅威に感じるのに、法子は老女を前にして、それ以上の何かを感じないわけにはいかなかった。
──先代から薬草を作る人。近所の人々を助ける人。
「何を遠慮しているんだい。いいから、とっておきなさい。これは法子の物なんだから」
既に、宝石の美しさには魅入られながら、それでも心のどこかに重苦しいものが残っていた。
「さあ。いいから、ほら」
けれど、この老人を悲しませるわけにいかない。法子ははにかんだ笑みを浮かべて、結局おずおずと手を伸ばした。別にかまわないではないか。身内の、曾祖母《そうそぼ》からご褒美をもらうだけのことだ。
「すごいじゃないか!」
夕食の時に、和人にもその指輪を見せると彼は目を丸くしてエメラルドに見入った。
「でも、何のご褒美なのか、分からないわ」
法子は嬉《うれ》しさ半分、不安も半分といったところで、困った顔でにこにこと笑っている家族を見回した。
「私達によくしてくれているからよ」
ふみ江が納得したように頷《うなず》く。
「そんな──よくしていただいているのは私の方なのに」
「でも、法子さんの雰囲気にぴったりよ。それは、法子さんでなきゃあ」
公恵は、買い物から帰って、法子が指輪を見せた時から、まるで自分が褒美をもらったみたいにはしゃいでいた。
「宝石は、やっぱり人を選ぶのよ」
法子は、徐々に居心地が悪くなりながら、とにかく笑っていた。嫌みを言われるよりはましだ。あら、どうして法子さんに? などと、空とぼけた高い声で言われるよりも、ずっと良いに決まっている。
──それにしても、いい人すぎない? 普通なら、嫌みが出ない?
だが、少しでも何かを考えようとすると、法子の中で警報が鳴るのだ。考えるな。妥協しろ。全てを受け入れて、この人達との生活にも慣れるのだと。
「お義母《かあ》さんも、こんなご褒美をおもらいになったことがあるんですか?」
「まさか! 永年一つ屋根の下に住んでたら、そんなことなんかないわよ」
公恵は愉快そうにくすくすと笑う。
「だったら、お嫁にこられた当時とか」
「だから──」
公恵が奇妙に口をねじ曲げてしまった時、ふいに武雄が「しかしなあ」と大きな声を出した。法子は驚いて義父の方を見た。
「いいねえ、デザインもいい。それなら、一生ものだ」
武雄はしきりに頷き、「どれどれ」などと首を伸ばして宝石をのぞき込む。それは、昨日とはうって変わって、いつもの賑《にぎ》やかな食事の風景だった。
──考えない。何も。
食事も終え、自ら買って出た後かたづけをする間も、法子はひたすら自分に言い聞かせていた。夏の水道水は、法子の故郷とは違って生ぬるかった。それでも水の感覚は心の安まるものがある。法子は、ざあざあという水の音を聞き、実家の両親と兄のことを思いながら、黙々と食器を洗った。
「嫌だ、観たいのがあるって言ってるでしょう」
「ちょっと待てって。逆転するかどうかの瀬戸際なんだから」
背後からは、居間でテレビを観ているらしい家族のやりとりが聞こえてくる。それは、法子一人を除いた家族、法子が嫁いで来る前の、従来通りの家族の姿だ。
──そのうち慣れるわ。今は、これが私の家族。これからも、この人達が私の家族。
心のどこかで、まだ泣きたいような気持ちが残っている。だが、悲しいことなど、何一つとしてありはしないはずだった。今更、ホームシックとも考えられない。一人でのんびりと洗い物をして、ようやく居間に戻ると、家族はまだ全員が残っていた。法子は、ごく当たり前に和人の隣に腰を下ろした。
「しみじみ、思うね。法子さんが和人の嫁に来てくれて、本当によかった」
ふいに武雄が呟いた。
「本当よ。今時、こんなにいいお嬢さんが見つかるなんて、和人は本当に幸せねえ」
次に公恵が頷いた。法子は、何事かと思って義理の両親を見比べた。ところが、今度は綾乃までが瞳を輝かせて身を乗り出した。
「私、義理のお姉さんっていうものが、こんなにいいものだと思わなかったな」
法子が「どうして?」と言う間もなく、突然、家族が一斉に口を開いた。
「感受性が豊かだっていうことは素晴らしいことだね」
「おねーちゃんは、きれい」
「とにかく、優しいのよね、法子さんは」
「さりげないお洒落《しやれ》っていうものを、心得てるのね」
「日毎に輝いてきているっていう感じ」
「そうそう、内面からね。人柄が出てきてるんでしょう」
「ちょ、ちょっと待って下さい。あの──」
法子はしばし呆気《あつけ》に取られて、照れた笑いを浮かべるのも忘れるくらいだった。頭がかっと熱くなって、受け答えの方法も思い浮かばない。
「恥ずかしがることないよ、法子は僕の人生で一番の手柄なんだから」
和人は、家族の前にもかかわらず法子の肩に手を回す。法子は余計に赤面し、いったい何が始まったのだろうかと戸惑うばかりだった。
「そうだよ、法子さん。最初に一目見た時から、ああ、この人ならって思ったんだ」
「父さんもそう思うだろう? だから、僕が最初に会って、すぐに『決めた!』と思ったのも、分かるよね?」
「分かる、分かる。おばあちゃんにも、分かるわ」
「あら、お母さんなんか、お見合いの写真を見た時に、もうぴんと来てたわよ」
「私も、私も!」
家族は一人が言い終わらないうちに、すぐに次の誰かが別の褒《ほ》め言葉を用意している。
「目ね、目が可愛いのね」
「でも、僕は鼻がいいと思うな」
「性格が出てるのは、目元と眉《まゆ》かねえ」
「品が出るのは口元でしょう」
法子は、次第に頭がくらくらする思いで、「家の宝」だとか「最高の女性」だとかいう言葉にさらされ続けた。
「あの──皆、どうしちゃったんですか? 皆で何か企んでるの? 何か、からかおうとしてるんでしょう」
あまりに続く褒め言葉に、いつの間にか、法子は満面の笑顔になってしまっていた。けれど、和人を始めとして誰もが「まさか」と大げさに手を振る。
「いつか言おうと思ってたことばかりなんだ。ほら、コミュニケーションが大切だっていうことを、もう僕らは学んでるんだし」
「思ったことはきちんと口に出して言った方がいいっていうことだよ」
「そうよ。お義姉さんはもっと自分に自信を持たなきゃ、ね?」
「綾乃の言う通りだよ。綾乃なんか、好き嫌いの激しい性格だからね、最初、和人が結婚するって決まった時には、随分心配してたんだ」
「私にとっても、こんなに可愛い孫が増えたっていうことは、本当に誇りに思えることなのよ」
彼らの言葉はとどまることがなかった。法子は頬が紅潮し続けるばかりで、最初の頃に感じていた身の縮むような恥ずかしさも麻痺《まひ》し、やがて彼らの褒め言葉に陶酔し始めた。本当は、今夜は観たいテレビがあったのに、いつしか、そんなこともすっかり忘れていた。
法子さんは最高。生まれついての優しさを身につけている。第一上品じゃないか。誰だって欠点の一つや二つはあるものなのに、法子さんの場合にはそれすら魅力になっている。
全員の口が、法子一人に向かっていた。彼らの瞳は一様に熱っぽく輝き、一心に法子を見続けている。いつの間にか、法子はすっかり彼らのペースにはまって、自分から自分の魅力と思われる部分を口にし始めていた。
「私、昔からそうなんです。あんまり飽きっぽくないんでしょうね」
「ほら、やっぱり。だから、見ていて分かるもの、お洗濯物一つ畳むんでも、丁寧だものねえ」
「変なところで凝《こ》り性っていうか」
「素晴らしいことだよ、それは。法子さんが来てから、うちの洗濯物はクリーニングから戻ってきたみたいにぴしっとしてる」
法子は次第に熱に浮かされたようになり、いつしか自分の幼い頃からの話、それも人から褒められた時のこととか、美しい思い出になっていることばかりを話し始めていた。可愛い子どもだったのねえ、その頃の君を見てみたかったなと、何を話しても笑ってしまうような受け答えが戻ってくる。料理の味付けは勘に頼ると言えば、生まれついてのセンスと才能があるのだと言われ、自分のワンピース程度ならば縫えると言えば、手先が器用なのだと頷かれる。
「本当に素晴らしいわ。百点満点!」
ついに公恵がきっぱりとした口調で言った時には、家族から拍手が起こった程だった。法子は言葉の洪水《こうずい》に流され、翻弄《ほんろう》され、ほとんど溺《おぼ》れかかっていた。
「でも、困ります。そんなに褒めていただいたら、いい気になってしまいそうだわ。実家の両親にも叱《しか》られますから」
ほとんど謙遜《けんそん》して言ったつもりだった。何しろ、法子はすっかりその気になっていた。
「────」
今度は、誰も何も言わなかった。ほんの少しの間、静寂が法子を包み込んだ。顔を上気させたまま、法子は小さく深呼吸をした。
「どうだろう。明日から皆で旅行に出ないか」
急に武雄が声の調子を変えて言った。法子は半ば拍子抜けし、その一方で驚いて義父を見た。ふいに、家族の間で素早い視線が交わされているのを感じた。覚えのある感覚、法子を不安に陥れた感覚が背中を走った。
「そうしましょう、行きましょう」
やはり公恵が奇妙にきっぱりとした言い方をした。
「旅行って──明日、から?」
「そう、明日から。正確には、今夜のうちに」
法子は、一斉に歓声を上げる家族に囲まれ、つい後先も考えずに、自分も拍手をしていた。いつの間にか、手も脇《わき》の下もじっとりと汗ばんで、額からは汗のしずくが伝い落ちた。熱に浮かされ、言葉に酔わされたままの状態で、「どこへ?」と尋ねる。だが、はっきりとした返答は誰からも聞かれなかった。
「ねえったら、どうして急に?」
「さあさあ、支度しよう」
「荷造りして、戸閉りは手分けしてね」
「和人、店に貼り紙をしてきてちょうだい」
何の為に突然そんなことをしなければならないのか、法子にはまるで分からなかった。こんなふうに突然に、一家|揃《そろ》って出かけることがあるなどと、想像もしていなかったのだ。しかも、公恵や武雄までならばともかく、足の萎《な》えてしまっているヱイに半身不随の松造、健晴まで連れていくとなったら、大変な騒ぎになることは目に見えている。
──でも、考えないことよ。何も。皆がそうするって言うんだから。
何かを期待するつもりは、既に失《う》せていた。せっかく旅行出来るというのに。嬉《うれ》しくないとまで言うつもりはないが、胸が躍るようなこととも思えない。ただ、一家総出で行くのだから、自分もそれに従うという、それだけの感覚だった。
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