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旅路76

时间: 2019-12-30    进入日语论坛
核心提示:    1有里は加代のことで、眼つきの良くない若い男から脅迫されたことを雄一郎の耳には入れなかった。男の言うように、雄一
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有里は加代のことで、眼つきの良くない若い男から脅迫されたことを雄一郎の耳には入れなかった。
男の言うように、雄一郎と加代の仲があやしいなどということは、有里はまるで信じなかったし、こんなつまらぬ事を夫に聞かせて、かえって大事な仕事の差障《さしさわ》りになってはと思ったのだ。
「主人はね、そんな下らない男じゃありませんよ……」
有里はきっぱりと言い切った。
「私たちは加代さんが可哀《かわい》そうな身の上だから、それでいろいろお世話しているのだけれど、それ以外の感情なんてこれっぽっちも持ってやしませんよ、嘘《うそ》だと思ったら加代さんに聞いてごらん、うちの主人にしたって加代さんにしたって、あなたの言うような、そんな不純な気持でつき合ってるんじゃありません……世の中にはね、若い男と女のあいだだからって、色恋抜きのきれいなつき合いがいくらだって有るのよ、勝手な想像で言いがかりをつけるのはやめてちょうだい……」
普段の、あのおとなしい有里を知る人にとってはまったく意外だろうが、有里はヤクザ風の男を前にして一歩もあとへ退《ひ》かなかった。
有里の気迫に押されてか、男は黙って立ち去ったが、それからのほうがむしろ有里は恐怖を感じた。
(よく、あんなことが言えたものだ……)
又、あとで嫌がらせをされるのではないかと、内心びくびくしていたが、結局それはそれで片がついたらしく、二度とふたたび、その男は有里の前にあらわれなかった。
それから一か月ほどたって、有里があの男のことをほとんど忘れかけたころ、今度は加代が、夜、こっそり訪ねてきた。
ちょうど雄一郎は夜行列車の乗務で家には居らず、秀夫を寝かしつけてしまってから、有里はせっせと夜仕事《よなべ》の針を動かしていた。
「おばんです、室伏さん……」
なんだか聞きおぼえのある声に出てみると、暗がりの中に、加代がしょんぼりと肩をおとして立っていた。有里を見ると、ちょっとあわてたように顔をそむけた。
「あら、加代さんじゃないの、お上りなさいよ……」
いつもの調子で、なんの屈託もなく言った。
「ずいぶん久しぶりね、その後どう……お店のほううまく行ってる?」
「はい……」
「そう、それは良かったわね……とにかくおあがりなさいよ」
「いえ、あの……私、すぐ帰らなければなりませんので……」
加代は眼をそらしたまま、ひどく聞きとりにくい声で言った。
そのときになって有里はようやく、加代の表情になにかひどく暗い翳《かげり》のあるのに気づいた。
「どうしたの、加代さん……なにか……」
「い、いえ……」
落ちつきのない眼を加代はあげた。
「あの……旦那さんは……?」
「あいにく、今夜は夜間の乗務なの」
「そうですか……」
加代の表情には、はっきり落胆の色が浮かんだ。
「なにか急の用事だったら、私から連絡してあげてもいいけれど……」
「いえ、いいです……じゃ、さよなら……どうもお邪魔しました、旦那さんによろしく言ってください」
加代は逃げるように、闇《やみ》の中へ消えてしまった。
その後姿を見送りながら有里は、加代がやって来たのは、夫に逢《あ》うためだったのだと、ようやく気がついた。
ふと、先日のヤクザ風の若い男のことを思い出した。
(あの人相の良くない男と加代とはいったいどういう関係にあるのだろう……もしかしたら、今夜の加代の身のまわりにただよっていた暗い影のようなものが、あの男となんらかの繋《つなが》りを持っているのではないだろうか……)
そして、また、加代が夫に逢い、何を言いたかったのかが、急に気になりだした。もしかしたら有里のまったく知らない所で、夫と加代とあの男とのあいだに秘密のスキャンダルのようなものが生じているのかもしれない。
翌朝、有里は夜勤あけの夫の表情をさりげなくうかがいながら、加代のことを切り出した。
「昨夜、来たって……何時|頃《ごろ》だ?」
「もう十時すぎでしたよ、なんだか、ひどく思いつめたような顔をして……」
「なにか用事でもあったのかな」
「さあ……」
別段、彼に狼狽《ろうばい》の色は見えない。
いつもと同じように、新聞に眼をさらしながら食事の出来るのを待っている。有里はもう一歩、夫の中へ踏み込んでその反応を確めてみたくなった。
「私もね、たぶん用事があって来たんだろうと思ったから訊《き》いてみたんですけど、何も言わないの……」
「変だな、どうしてだ?」
「さあ、どうしてでしょうね、どうも、あなたでないと駄目らしいのよ」
雄一郎が眼をあげた。
「馬鹿《ばか》……なんだ、その言いかた……」
「でも、そうなんですよ、なにも言わないで、あなたが夜勤だといったら、がっかりしてね、はっきり態度にみせるのですもの……なんとなく、いい気持ではなかったわ」
「おい。秀夫がいるでないか……」
「別に、やきもち焼いてるわけじゃありませんよ、ただね、なんとなく様子がおかしかったんで心配になったの」
「そういえば……」
雄一郎が、ふと思いついたように眉《まゆ》をよせた。
「俺《おれ》もここんとこしばらくあの店へは行ってないんだが、なんだか変な男からちょいちょい電話があったな……」
「変な男から電話……?」
「うん、加代に手を出すなとか、加代は俺の女だとかなんだとか……あまり馬鹿馬鹿しいので相手にしなかったんだがな……」
「ああ、その男ですよ」
有里は先日の脅迫の一件を、はじめて雄一郎に打明けた。
「ほんとに、あなた何の関係もないんでしょうね?」
「馬鹿、当り前じゃないか」
呆《あき》れたように有里を見た。
「お前、本気でそんなことを考えてたのか」
「別に本気でなんて考えてやしないけど……」
「多少はうたぐってたんだな」
「したって……」
「こいつめ」
雄一郎が指で有里の額を軽く小突いた。
「まだ亭主のことが信用できんのか、しようのない奴《やつ》だ」
「したって……」
有里は小娘のように頬《ほお》を赤くした。
怪訝《けげん》そうに両親の顔を見比べている秀夫に気づくと、有里はあわてて台所へたった。
ひとりになると、なんだか急におかしさがこみ上げてきた。味噌汁《みそしる》をかきまわしながらクスクス笑ってしまった。
冷静になって考えてみれば、雄一郎が加代とそんな変な関係になることなど絶対にあり得ないことなのだ。げんに、あの若い男の前ではえらそうな口をきいているくせに、夫に対しては必要いじょうに疑わしげなことを言ってしまう自分が恥かしかった。
(でも、妬《や》くのは愛している証拠よ……)
有里はさっき夫の前で口ごもって言えなかった台詞《せりふ》を、自己弁護の気持も含めてもう一度胸の中で繰返してみた。
それにしても、あの時の加代の態度には、やっぱり気になるものがあった。
「あなた、あとでちょっと加代さんのお店のぞいて来たら……」
今度はべつに他意を含めぬ声で、有里は台所から夫に言った。
「わざわざ行くこともあるまい、用事があるなら、又、来るだろう」
「そうかしら……」
加代に関する二人の会話はそこで跡切《とぎ》れた。
が、それから間もなく、隣家の岡井よし子の持って来た加代に関する報告を聞いて、有里と雄一郎は思わず顔を見合せた。
「かけおち……?」
「はあ……相手はなんでもいつも飲みにくる船員だというがね、あんたんとこには、やっぱり何んも言うて来なかったかね」
「いつですの、それ……いったい、いつ居なくなったんです?」
「昨日だと……店が閉ってから出掛けたで、てっきり風呂《ふろ》にでも行ったんだと思ってたら、そのまま朝になっても戻らんので、荷物さ調べてみたら、あんた、ろくな物も残っとらなんだのだと……」
「まあ……」
「店の金を持ち出したりはしてないでしょうかね」
雄一郎は洋服に着換えはじめた。
「とにかく行ってみましょう、どうも近頃様子が変だと思っていたんですが……有里、ちょっと行って来る……」
「ええ……」
雄一郎とよし子を送り出してしまった後で、有里は昨夜の加代のことを思い出した。
(何故《なぜ》、駈落《かけお》ちするならするで、一言私に相談してくれなかったのかしら……)
どうせ、あの若い男と一緒だろうが、加代が幸福な結婚生活を送れるとはどうしても思えなかった。いずれ捨てられるか、逃げだすかするだろう。折角、雄一郎に助けられたのに、今度は自分から再び泥沼へとび込んで行ってしまったのだ。
いつもと様子の違う加代に気がついていながら、どうして引き止めて問いたださなかったのだろうか。
理由ははっきりしている。加代が雄一郎と自分とを区別したからだ。加代が雄一郎を愛していると本能的に感じたからだ。そして加代を無意識に警戒したからだった。有里の心の動きは、素早く加代にも伝わったに違いない。それで、加代は逃げるように去って行ったのだ。
有里は哀《かな》しくなった。
昨夜、雄一郎が家に居さえしたら、いや、自分がもっと親身になって加代と応対してやっていたら……。
(それでもやっぱり、加代は駈落ちしていただろう……)
と、有里は思った。
たとえ雄一郎でも加代を引きとめることは出来なかったにちがいない。加代が本当に好きだったのは、あの若い男ではなく、雄一郎だったのだから。
有里は三千代のときにも、今日と同じような気持になったことを思い起した。
三千代は家を出たまま、何処に居るのかまるで消息がわからないという。
三千代にしても加代にしても、有里は憎いと思ったことは一度もなかった。それどころか同じ女として、痛いほどその気持が理解できる。しかし、それ以上のことを有里は何もしてやれない。
娘のころ、有里は自分の身を犠牲にして他人に尽す、いわゆる大きな、神のような愛に憧《あこが》れた時期があった。他人の餓えているとき、自分の食物をそっくり与えてやる行為こそ、人間として最高の行為ではないかと思ったものだった。
今の自分はそれとまったく逆のことをしているのではないだろうか。あまりにも本能の牙《きば》をむき出しにして、自分の仕合せのみを必死になって守りすぎているのではないだろうか。
有里はふとかたわらの秀夫を見た。
寝ころがって絵本を読んでいた秀夫は、いつの間にかスヤスヤ静かな寝息さえたてて眠っていた。
「まあ、風邪《かぜ》をひくわ……」
有里はその上に、雄一郎が脱ぎ捨てて行った着物をそっとかけてやった。
子供らしい長い睫《まつげ》、桃色のすき透るような色をした唇、さっき食べた安倍川餠《あべかわもち》の黄粉が口のまわりから頬《ほお》にかけて、まだいっぱいついている。
その寝顔を眺めているうちに、それまで有里の心に固くしこっていたものが、あとかたもなく消えて行くのを感じた。
三千代や加代にとった自分の態度は、妻として、母として、やはり当然のことだったのだという強い自信のようなものが、大きく胸の底からふくれ上って来た。
(やっぱりあれはあれで良かったのだ……今の私にとっては、秀夫を愛し、夫を愛し、家庭を守ることが一番神さまの意志にそうことに違いない……)
有里はようやく自分が、主婦としての使命をはっきり自覚したと思った。
夫の帰ってくる前にもう一度甘酒を温めなおしておこうと、有里は足音をしのばせて台所へたって行った。
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