再び重右衛門日記\
五月二十三日
雨天。
朝より珍しく雨降る。例の如《ごと》く手桶鍋《ておけなべ》など、胴の間に持ち出してこれを受く。吾も仁右衛門も、ようやく元気つきて、少しく手伝うを得。驚くべきは常治郎の回復なり。吾らより齢若きこと無論なれど、かの黒き斑点常治郎の体より全く消え去りたり。さては岩松が荒療治効を奏したるや。あるいは魚のはらわたすすりたるが効きたるや。何《いず》れにせよ驚くべきことなり。
夕刻、利七胴の間に出て行くを目くばせして、辰蔵に後を尾《つ》けしむ。いつ海に飛びこまんかと、ひそかに憂いいたればなり。と、胴の間にて相争う声す。何事ならむと打ち出で見たるに、利七|折角《せつかく》貯め置きし雨水に小便をばらまきいたるなり。岩松三の間より太き綱を持ち来たり、利七をろくろに繋《つな》ぎたり。利七|喚《わめ》けども岩松そ知らぬ顔なり。