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受精15

时间: 2020-09-30    进入日语论坛
核心提示:15 レストランの入口で、ジョアナがいつものように両手を胸の前で合わせ、「コンバンワ」と挨拶《あいさつ》する。舞台近くのテ
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 レストランの入口で、ジョアナがいつものように両手を胸の前で合わせ、「コンバンワ」と挨拶《あいさつ》する。舞台近くのテーブルが空いていて、そこに席を取った。
 演奏は、二人が皿に食べ物を満たして席に戻ったときに始まった。
「ここなら、何をしゃべっても聞かれる心配はないわ」
 香料のたっぷりかかったマトンを切り分けながら寛順が言った。「部屋だと恐い。電話はなおさら用心しなくちゃ」
 舞子は、シャケに似た赤身の魚のマッシュルーム和《あ》えを皿に取っていた。
「深刻な顔をしちゃ駄目よ。あくまで、音楽を楽しんでいるふり」
 寛順は笑顔をつくって周囲を眺めた。
 レストランは、ほぼ満席だ。隅の方にある広いテーブルを占領しているのは、団体客のようで、中年の男女ばかりだ。声高に話している言葉は英語でもポルトガル語でもない。
「ユゲットよ」
 ユゲットにテーブルの位置を示してくれたのはジョアナだ。ユゲットはゆっくり近づいてくる。白いヘアバンドで金髪を束ね、ムームーのようにゆったりとした白いドレスを着ている。肩と背中が大きくカットされ、人目をひく。
「フランス人も、団体で来るとあつかましくなるわ」
 ユゲットが苦笑した。「リヨンの近くの農家の人たち。バカンスついでに、健康チェックをして貰《もら》いに来たそうよ」
「ユゲットは、自分がフランス人であるとは言わなかったでしょう?」
 寛順が皮肉っぽく訊く。
「図星。一緒にされてはかなわないから、ブラジル人にしておいたの」
 ユゲットは片目をつぶる。
 料理を取りに行ったものの、皿には、カボチャをつぶして甘味をつけたデザート風な物と、野菜とハムのサラダがのっているだけだ。
「さっき、サルヴァドールに電話してみた」
「彼女の知り合いのところね」
 寛順が問い返す。
「五十歳くらいかしら。英語はあまり上手ではないけど、本当にびっくりしていた」
「どういう関係なの? 彼女とは」
「訊かなかった。五、六度サルヴァドールに来て、ひと月前が最後だったらしいわ。そのあと電話が何回かあって、心配はしていたのですって」
「何の心配?」
 舞子が訊く。
「彼はそれを言わないの」
 ユゲットは眉《まゆ》をひそめた。「逆に、どこから電話をしているのか、わたしに訊くので、病院の部屋からだと答えた。すると、じゃだめだ、他のところから電話をしてもらうか、直接会って話をするしかないって」
「つまり、電話を誰かに盗聴されるのを警戒しているのね」
 寛順が冷静に言った。
 演奏が、初老の男性から女性ボーカルに替わっていた。艶《つや》のあるのびやかな声だ。フランス人の一行もなりをひそめ、歌声に聞き入っている。
「たぶん、彼女が死ぬ前に、その男性に何か言っていたのだと思うわ。だから、彼のほうは病院に疑いをもっている──」
「どんな疑い?」
 謎《なぞ》をかけるように寛順が問う。
「それが分かればね」
 ユゲットは首を振り、チーズパンを指でちぎって口の中に入れた。
 舞子はデザートのパパイアを取りに行く。ここに来て、もう何切れのパパイアを食べただろう。日本で一生のうちに食べられる量の何倍かは口にした。最初は珍しかった味が、もう当たり前になっていた。
「マイコはホームシックにはかからない?」
 寛順が席を立ち、二人になったときユゲットが訊いた。
「まだかかる暇がない。いろいろなことが起こったから」
 舞子は何とか答える。実際まだ日本には葉書さえも出していない。
「ユゲットは、ホームシックにかかったことあるの?」
 反対に舞子が尋ねる。
「今まではなかったけど、この頃、そうなのかもしれない」
 ユゲットの口元に、寂し気な笑みが浮かぶ。
「時折、このまま帰ろうかとも思うの」
「じゃあ向こうで出産するのね」
「そう」
「ドクター・ツムラはどう言っている?」
「一度帰って、出産時期になってもう一度帰ってもいいとは言ってくれる」
「でも臨月近くになっての旅は大変でしょう」
「実際、それは大変。ずっとここにいるほうが楽に決まっている。でもそれがくせ者なのよ」
 ユゲットは小さな嘆息をする。「こんなに何ひとつ不自由のない生活をしているようで、実はがんじがらめの生活。目に見えない鎖が巻きついている──」
「見えない鎖?」
 思いもよらぬ言葉に、舞子は訊き直す。
「ここに鎖があるみたい。マイコは感じない?」
 ユゲットが胸に手を当てた。舞子と同じように、亀のデザインのはいった鍵《かぎ》をペンダントのように垂らしていた。
「ほら、魚の放し飼いがあるじゃないの。海の中に網が張られているわけではないけど、魚は餌場《えさば》の近くの海域から外には出ない。自由に泳ぎ回っているけど、実際は水槽に飼われているのと同じ」
 寛順がスイカとメロンを皿の上にのせて戻ってくる。
 ボサノバの演奏が終わって、フランス人の一団の話し声が次第に高くなる。最後には、小柄な男性が立ち上がって音頭をとり出した。
 一斉に歌い始めたのは〈ラ・マルセイエーズ〉だ。ユゲットがあきれたように、肩をそびやかした。
「フランス人も団体になると日本人の旅行客と似ている」
 寛順が苦笑する。
「行きましょう」
 ユゲットが立ち上がる。怒ったように歩き出した。
「オヤスミナサイ」
 出口でジョアナが声をかけた。
 ユゲットのあとについて庭の方に向かう。月明かりの下で、野外チェスの市松模様がくっきり浮き出ていた。
 チェス盤の横に、大理石のベンチがあった。四人がけで、やはり石の肘《ひじ》かけで仕切られていた。ユゲットを真中にして坐《すわ》った。
「不思議だけど、ここでチェスをしている人なんか見たことがない。だから、この椅子《いす》はいつも空いている。昼でも夜でもここに来て坐るのが、わたしの日課だった。チェスの駒《こま》を眺めていると妙に気持が落ちつく。チェスなんかしたこともないのに──」
「動かない石の像がいいのよ、きっと」
 寛順が言う。
「自分もそのなかのひとつになった気持になるのかもしれない。一時間でも二時間でも、ここに坐っていた」
 ユゲットは、黒々と重なるヤシの樹木、その奥の暗い海に眼を向ける。「そうそう、バーバラと何度か会ったのもここだったわ」
 ようやく思い出したというように、ユゲットは坐り直した。
「最後に会ったのは?」
 寛順が訊いた。
「十日くらい前かしら。あの人は白いローブを着ていて、海の方から、そこの小径《こみち》をゆっくり歩いてきたの。そのシルエットが美しいのと、両手に何かを掲げ持っていたので、ニンフが海から上がって来たようだった。チェスの盤の向こうまで来たところで、わたしに気づき、今晩はと声をかけてくれた。気持の良い夜ですねって返事したので、彼女、チェス盤の中にはいって、手に持ったサンダルを地面におき、駒をひとつだけ、動かしたの。かなりな重さなので、彼女は抱くようにして運んだ。わたしがそれを手伝うわけにもいかず、見ているしかなかった」
「どうして彼女、チェスの駒を動かしたのかしら」
 舞子は訊いた。身重のバーバラが黒いチェスの駒を、何かに憑《つ》かれたように移動する。異様な光景だ。
「なぜかは知らない。動かすときに、ひとりごとを言っていた。そのあとわたしの方に笑顔を向けて、海の音って日によって変わるのね、と言ったの。特に今夜は風が強くて、何か吠《ほ》えているようですね、とわたしは答えた。
 バーバラはわたしの横に坐るのかと思ったけど、そのまま〈ボーア・ノイチ〉と言い残して、行ってしまった。詩人か芸術家のような人だなって、彼女を見ながら思った」
 三人とも黙った。海鳴りが耳に届く。風が強くなっていた。
「チェスの位置は、その時とどこか変わっているのかしら」
 寛順が訊《き》く。
「さあ、覚えていない。でもバーバラが抱えたのは黒のキングだった」
 その駒を探すように、寛順は、視線をチェス盤の方に向けた。
 ──バーバラは殺されたのよ。
 突然口にしそうになるのを、舞子はかろうじてこらえた。
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