「言う/話す/しゃべる」の違いは何ですか?
こたえ
一般的な意味を辞書的に記述すると次のようになります(参考:『基礎日本語』など。なお、質問の語以外に関連する語も含めました)。
「いう」
口頭で表現する
(手段を問わず)表現する
音がする
名付ける
「はなす」
(まとまった内容を)口頭で表現する
会話する
「しゃべる」
口頭で表現する
(望ましくない状況で/事柄を)口頭で表現する
「かたる」
(まとまった内容や感情を)言語的に表現する
物語る(伝える・示す)
「のべる」
(思考の内容を)言語的に表現し展開する
陳述する
次に、具体例を見ていきます。
「おはようと いう/*はなす/*しゃべる」
→「いう」は、短い単位にも使えるが、「はなす」「しゃべる」はある程度まとまった長さがないと使えない
「寝言を(文句を/独言を/言い訳を) いう/*話す/??しゃべる」
→「はなす」「しゃべる」は、一方的な伝達には使いにくい
→「はなす」は協調的な行為で、「いう」は一方的な行為になる
そのため、「二人で話す」と「二人でしゃべる」とは〈二人で互いに話をする〉という意味になり、「二人で言う」は〈二人が同時にあるいは協力してそれ以外の人にものを伝える〉という意味になる
また、「二人で話しあう」は〈相談する・議論する〉意味になり、「二人で言いあう」は〈口論する・けんかする〉意味になる。「しゃべる」にはもともと〈雑談をする〉という意味合いがあるので、「*二人でしゃべりあう」とはいえない
「今日あったことを全部 いいなさい/はなしなさい/しゃべりなさい」「事情をくわしく話しなさい/?言いなさい/しゃべりなさい)」
→「いう」よりも「はなす」の方が説明的な意味合いになる。これは、「はなす」が短い単位には使えないためと思われる
→「しゃべる」を使うと俗な感じになる(スタイルが低い)。例えば「秘密をぺらぺらとしゃべるな!」「よくしゃべる男だ。」「しゃべってばかりいないで仕事をしなさい。」のように、「しゃべる」には、マイナス評価が含意されることが多い
「この文章の筆者が いう/*はなす/*しゃべる ところでは~。」
→「はなす」「しゃべる」は書きことばには使えない(口頭での表現に限られる)が、「いう」は書き言葉の客観的な表現についても使える
「おなかがグーグー いっている/*はなしている/*しゃべっている。」
→「いう」には、〈音がする〉という意味もある
「資格がものを いう/*はなす/*しゃべる 世の中だ。」
→「いう」は、言語以外の表現方法・手段に対しても使える
「それが日本と いう/*はなす/*しゃべる/国です。」
→「いう」には、〈名付ける〉という(または名付けられたものを指す)意味がある
参考までに、「かたる」「のべる」についても見ておきます。
「この文章の筆者が かたる/のべる ところでは~」
→「かたる」「のべる」は、ともに書きことばに対して使える
「おはようと *かたる/?のべる」
→「かたる」「のべる」は、ある程度まとまった長さがないと使えない
「二人で かたる/のべる。」
→「かたる」よりも「のべる」の方が、一方的な行為という語感がある
そのため、「二人でかたりあう」というと、二人で会話をする意味になる。(お互いをまったく無視しているように感じられるため)「?二人で述べあう」とはいいにくい。
「金田一が論文でそう ?かたっている/のべている。」「筆者多いに かたる/??のべる。」「自分の経験を かたる/のべべる。」
→「かたる」は、〈感情や心情の表出〉という主観的な要素が強いので、そのため、論理的な内容を伝えるときには使いにくい
たとえば、「話しあう」と「語りあう」とを比較すると、「話しあう」は論理的に議論する意味になり、「語り合う」は心を開いて気持ちを伝えあうという意味になる
一方、「のべる」は、〈思考の内容を言語表現として展開する〉という意味をあらわすので、主観的・感情的な内容を伝えるときには伝えにくい。「自分の経験をかたる。」というときには、気持ちを込めて伝えるという意味合いになり、「自分の経験を述べる。」というときには、論理的・客観的に伝える意味合いになる。
「事実がそう かたっている/*のべている。」
→「かたる」は、言語以外の表現方法・手段に対しても使える。また、「語る」は「物語る」の意味も持つ。