- 「しる」
-
- 知識・情報・経験の獲得
- 理解する
- (…テイルの形で)知識・情報・経験の所有
- (…テイルの形で)記憶する
- 「わかる」
-
- 事柄の実態を理解する
- 実態を解明する
- 判明する
- 判断する
- 識別する
「知る」の例文
- その時に、ことばの意味を/彼のことを/酒の味を知った。(知識/情報/経験の獲得)
- 一を聞いて十を知る。(理解する)
- 方程式のときかたを/試合の勝敗を/人生の悲惨さを知っている。(知識/情報/経験の所有)
- 君の名前を(彼の電話番号を)知っている。(記憶として保持)
「わかる」の例文
- 違いが/日本語が/人の心のわかる男だ。 話せばわかる。(事柄の実態の理解)
- 辞書を引けばわかる。 癌発生のメカニズムがわかる。(実態の解明)
- 事故の原因が/彼におこられた理由がわかった。(判明)
- 行くかどうかわからない。(判断)
- 暗くてどこに何があるかわからない。 あの人なら本物か偽物かわかるはずだ。(識別)
ここで、「知る」と「わかる」の違いは、次のように考えられます。
例えば、「よく知らない人」とは、〈面識のない人・どこの誰か不明な人物〉という意味ですが、「よくわからない人」というと〈面識はあるが不思議な人/変わった人〉ということになります。つまり、〈未知の事実が既知になる〉のが「知る」で、〈既知の事実の本質に達する〉のが「わかる」です。そのため、「考えればわかります。」とはいえても「*考えれば知ります。」とはいえません。
また、「これからどうなるかはいずれわかりますよ。」とはいえますが、「??これからどうなるかはいずれ知りますよ。」はおかしな表現です。「わかる」には、無意志的な作用という意味合いが含まれるからです。「これからどうなるかはいずれわかりますよ。」という文は、〈意志的に理解しようとしなくても自然に理解可能になる〉という意味です。一方、「知る」には、意志的な動作という意味合いがあるものと考えられます。
また、「知る」と「わかる」には文法(語法)上の違いも見られます。
「わかる」は、自動詞の状態動詞であり、「が」格をとります(例:「答えがわかる。」)。規範的には、「わかりたい」「わかられる」「わかりうる」とはできません(ただし、実際には、「知りたい」を強調した表現として「わかりたい」が使われることがあります。例「わかりたいなら、この本を買って勉強しなさい。」)。一方、「知る」は、他動詞の動作動詞であり、「を」格をとります(例:「答えを知る。」)。また、希望(「知りたい」)・受身(「知られる」)・可能(「知りうる」)の形にできます。
「知る」を動作動詞であるといいましたが、「知る」は瞬間的な動作をあらわす語です。そのため、相手の知識や記憶を問うときに「*~を知りますか?」ということはできません。「知っていますか?」とテイル形にする必要があります。「知る」は、テイル形で使われたときに〈知識・情報・経験を持っていること〉を表わすのです。例えば、「夏目漱石を知っていますか?」という文は、夏目漱石に関する知識を持っているかどうか質問しています。この場合の「…テイル」は、結果の状態の存続を示しているものと考えられます。
注意しなければならないのは、「知る」は、テイル形の否定ができないということです。「*知っていない」とはいえません。そのため、「知っていますか?」という質問に否定で答える場合は、「いいえ、知りません/*知っていません。」ということになります。一方、「わかる」は「わかりますか?」とも「わかっていますか?」ともいうことができます。に対しては、「わかりますか?」には「わかる/わからない」、「わかっていますか?」には「わかっている/わかっていない」と答えることになります。
「知る」 | 「わかる」 | ||
---|---|---|---|
質問 | 答え | 質問 | 答え |
× | × | 「わかりますか?」 | 「はい。わかります。」 「いいえ。わかりません。」 |
「知っていますか?」 | 「はい。知っています。」 「いいえ。知りません。」 |
「わかっていますか?」 | 「はい。わかっています。」 「いいえ。わかっていません。」 |
また、「知っている」は、〈知識を持っている=記憶している〉ことをあらわすだけではありません。〈情報を持っている〉場合にも、「知っている」ということができます。ですから、「光一君の電話番号を知っていますか?」という質問に、「はい。知っていますが、今はちょっとわかりません。」のように答えることができます。これは、例えば、電話番号を書いた紙を持っているけれども記憶(暗記)はしていない(今は、電話番号を書いた紙が手もとにないので教えることができない)ということを言っています。「知って(い)る」けれども「わからない」ことがあるのです。
一般に、知識は「知る」ことから「わかる」ことへと深まってゆきます。そのため、「知っている」は、既知であることを示しますが、「わかっている」は既知の事実の本質を掴んでいる(深く理解している)ことを示します。例えば、「知っているつもり」は、十分な量の知識があると思っている状態を指し、「わかっているつもり」は、知識の内容を十分に理解していると思っている状態を指します。
まとめていうと、
- 「知って(い)る」=あることがらを知識として保持した状態にある
- 「わかって(い)る」=あることがらの本質を理解した状態にある
ということになるでしょうか。