しかし、人魚姫はどうすることもできません。ただ船の手すりにもたれているばかりでした。その時、波の上にお姉さんたちが姿を見せました。
「魔女から、あなたのためにナイフをもらってきたわ。これで王子の心臓を刺しなさい。そしてその血を足に塗るのです。そうすれば、あなたは人魚に戻れるのよ。」
人魚姫はナイフを受け取ると、王子の眠る寝室へと入っていきました。
王子様、さようなら、わたしは人魚に戻ります。
人魚姫は王子の額にお別れのキスをすると、ナイフを一息に突き立てようとしました。でも、人魚姫には、愛する王子を殺すことができません。人魚姫はナイフを投げ捨てると、海に身を投げました。
波に揉まれながら人魚姫は、だんだんと自分の体が溶けて、泡になっていくのがわかりました。その時、海から登った
お日さまの光の中を、透き通った美しいものが漂っているのが見えました。人魚姫も自分が空気のように軽くなり、空中
にのぼっていくのに気付きました。
「わたしはどくに行くのかしら。」すると、透き通った声が答えます。「ようこそ、空気の精の世界へ。あなたは空気
の精になって、世界中の恋人たちを見守るのですよ。」
人魚姫は自分の目から、涙が一滴落ちるのを感じながら、風とともに雲の上へとのぼっていきました。