比丘《びく》(僧)ばかりをからかって、比丘尼を無視するわけにはいかない。ところで最近仕事と探勝をかねて雲州松江《うんしゆうまつえ》をおとずれ、宍道湖畔《しんじこはん》の宿で、鳥取《とつとり》の友人が酔いに乗じて歌ってくれた『三人娘』という民謡はおもしろかった。
因州《いんしゆう》因幡《いなば》の烏取の
しかも街道のまん中で
三人娘が出あいして
先なる娘は十六で
中なる娘は十七で
あとなる娘は十八で
先なる娘がいうことにゃ
はじめて殿御《とのご》とねたよさは
三つ目のキリでもむがごと
キリリキリリと痛《い》とごんす
中なる娘がいうことにゃ
はじめて殿御とねたよさは
朝倉|山椒《ざんしよ》をかむがごと
ヒリリヒリリとようごんす
後なる娘がいうことにゃ
はじめて殿御とねたよさは
麦|飯《まま》とろろを吸うがごと
トロリトロリとようごんす
深夜放送のセクシーな声やムードでやられるとかなわないが、調子が軽くひなびているので、ひょうきんでおもしろかった。本書がソノラマでないのが残念だ。
——文句がもうすこしおだやかだとネ、とうに放送されてるんだが。
と、鳥取の友人も残念がっていた。
さてこの三人娘の趣向はずいぶん古いもので、江戸初期の小咄本《こばなし》『きのうはきょうの物語』に三人|尼《あま》のはなしがある。
尼さんが三人づれで歩いていると、道ばたで、馬が|あれ《ヽヽ》をおっ立てていた。彼女たちは尻目にかけて、そしらぬ顔で通りすぎたが、先なる尼さんがこらえかねていった。
——今の物は、さても見事や、いざめんめんに名をつけよう。
あとの二人が賛成したので、さらばと、先なる尼さんが「九献《くこん》」と名づけた。そのわけをきくと、
——酒は夜昼なしに、飲みさえすれば心が勇んでおもしろい。その上酒は三々九度といって、九度のむのが正式じゃ。それから上は相手の気根しだい。
といった。
中なる尼さんは「梅干《うめぼし》」と名づけ、
——見るたびに唾《つば》が出るから。
といった。
後なる尼さんは「鼻毛抜き」と名づけ、
——抜くたびに涙がこぼれる。
といった。