ハリーは再びトランクの上に屈かがみ込んだ。が、とたんにまた立ち上がった。手には杖がしっかり握られている。物音がしたわけでもない。むしろ気配を感じた。ハリーの背後の垣根かきねとガレージの間の狭い隙間すきまに、誰かが、何かが立っている。真っ黒な路ろ地じを、ハリーは目を凝こらして見つめた。動いてくれさえすればわかるのに。野の良ら猫ねこなのか、それとも――何か別のものなのか。
「ルーモス! 光よ!」
呪じゅ文もんを唱となえると、杖の先に灯あかりが点ともり、ハリーは目が眩くらみそうになった。灯りを頭上に高々と掲かかげると、「2番地」と書かれた小石混じりの壁かべが照らしだされ、ガレージの戸が微かすかに光った。その間にハリーがくっきりと見たものは、大きな目をギラつかせた、得体えたいの知れない、何か図ずう体たいの大きなものの輪りん郭かくだった。
ハリーは後ずさりした。トランクにぶつかり足を取られた。倒れる体を支えようと片かた腕うでを伸ばした弾はずみに、杖つえが手を離はなれて飛び、ハリーは道路脇わきの排はい水すい溝こうにドサッと落ち込こんだ。
耳をつんざくようなバーンという音がしたかと思うと、急に目の眩むような明りに照らされ、ハリーは目を覆おおったが……。
危き機き一いっ髪ぱつ、ハリーは叫さけび声をあげて転ころがり、車道から歩道へと戻もどった。次の瞬しゅん間かん、たったいまハリーが倒れていたちょうどその場所に、巨大なタイヤが一対、ヘッドライトとともにキキーッと停とまった。顔を上げると、その上に三階建ての派は手でな紫色のバスが見えた。どこから現れたものやら、フロントガラスの上に、金文字で「夜の騎士ナイトバス」と書かれている。