ハリーはもう一度トランクの中を引ひっ掻かき回し、巾きん着ちゃくを引き出し、銀貨ぎんかをスタンの手に押しつけた。それからヘドウィグの籠かごをトランクの上にバランスよく載のせ、二人でトランクを持ち上げ、バスに引っ張ぱり上げた。
中には座席ざせきがなく、代わりに、カーテンの掛かかった窓まど際ぎわに、真しん鍮ちゅう製せいの寝しん台だいが六個並んでいた。寝台脇わきの腕木うでぎに蝋ろう燭そくが灯ともり、板張いたばり壁かべを照らしていた。奥のほうに寝ねている、ナイトキャップをかぶった小っちゃい魔法使いが寝言を言いながら寝返りを打った。――「ムニャ……ありがとう、いまはいらない。ムニャ……ナメクジの酢す漬づけを作っているところだから」
「ここがおめえさんのだ」
トランクをベッド下に押し込こみながら、スタンが低い声で言った。運転席のすぐ後ろのベッドだ。運転手は肘ひじ掛かけ椅い子すに座ってハンドルを握にぎっていた。
「こいつぁ運転手のアーニー・プラングだ。アーン、こっちはネビル・ロングボトムだ」
アーニー・プラングは分厚ぶあついメガネを掛けた年配の魔法使いで、ハリーに向かってこっくり挨あい拶さつした。ハリーは神しん経けい質しつにまた前まえ髪がみを撫なでつけ、ベッドに腰掛けた。
「アーン、バス出しな」
スタンがアーニーの隣となりの肘掛椅子に掛けながら言った。
もう一度バーンというものすごい音がして、次の瞬しゅん間かん、ハリーは反動でベッドに放ほうり出され、仰向あおむけに倒れた。起き上がって暗い窓から外を見ると、まったくさっきと違った通りを転ころがるように走っていた。ハリーの呆気あっけにとられた顔を、スタンは愉快ゆかいそうに眺ながめていた。