「ええ」ハリーは本のリストを見ながら答えた。
「カッサンドラ・バブラツキーの『未来みらいの霧きりを晴はらす』をください」
「あぁ、『占うらない学がく』を始めるんだね?」
店長は手袋をはずしながらそう言うと、ハリーを奥へと案内した。そこには、占いに関する本を集めたコーナーがあった。小さな机にうずたかく本が積み上げられている。「予よ知ち不ふ能のうを予知する――ショックから身を護まもる」「球たまが割れる――ツキが落ちはじめた時」などがある。
「これですね」店長が梯子はしごを上り、黒い背せ表びょう紙しの厚い本を取り出した。「『未来の霧を晴らす』これは基き礎そ的てきな占い術のガイドブックとしていい本です。――手て相そう術じゅつ、水すい晶しょう玉だま、鳥の腸はらわた……」
ハリーは聞いていなかった。別な本に目が吸いよせられたのだ。小さな机に陳ちん列れつされている物の中に、その本があった。「死の前ぜん兆ちょう――最悪の事態じたいが来ると知ったとき、あなたはどうするか」
「あぁ、それは読まないほうがいいですよ」
ハリーが何を見つめているのかに目を留とめた店員が、こともなげに言った。
「死の前兆があらゆるところに見えはじめて、それだけで死ぬほど怖こわいですよ」
それでもハリーはその本の表紙から目が離はなせなかった。目をぎらつかせた、クマほどもある大きな黒い犬の絵だ。気き味みが悪いほど見覚えがある……。
店員は「未来の霧を晴らす」をハリーの手に押しつけた。
「ほかには何か?」
「はい」
ハリーは犬の目から無む理りに目を逸そらし、ぼーっとしたままで教科書リストを調べた。
「えーと――『中級変へん身しん術じゅつ』と『基本呪じゅ文もん集しゅう・三学年用』をください」