「ネビルが首尾しゅびよくやっつけたらそのあと、まね妖怪は次々に君たちに向かってくるだろう。みんな、ちょっと考えてくれるかい。何が一番怖こわいかって。そして、その姿をどうやったらおかしな姿に変えられるか、想そう像ぞうしてみて……」
部屋が静かになった。ハリーも考えた……。この世で一番恐ろしいものはなんだろう?
最初にヴォルデモート卿きょうを考えた。――完全な力を取り戻もどしたヴォルデモート。しかし、ボガート・ヴォルデモートへの反はん撃げきを考えようとしたとたん、恐ろしいイメージが意識いしきの中に浮かび上がってきた……。
腐くさった、冷たく光る手、黒いマントの下にスルスルと消えた手……見えない口から吐はき出される、長いしわがれた息遣づかい……そして水に溺おぼれるような、染しみ込こむようなあの寒さ……。
ハリーは身震みぶるいした。そして、誰も気づかなかったことを願いながら、あたりを見回した。しっかり目をつぶっている生徒が多かった。ロンはブツブツ独ひとり言ごとをいっていた。「脚あしをもぎ取ってと」ハリーにはそれが何のことかよくわかった。ロンが最高に怖いのは蜘く蛛もなのだ。
「みんな、いいかい?」ルーピン先生だ。
ハリーは突とつ然ぜん恐きょう怖ふに襲おそわれた。まだ準じゅん備びができていない。どうやったら吸魂鬼ディメンターを恐ろしくない姿にできるのだろう? しかし、これ以上待ってくださいとは言えない。なにしろ、みんながこっくり頷うなずき、腕うでまくりをしていた。
「ネビル、私たちは下がっていよう」ルーピン先生が言った。「君に場所を空あけてあげよう。いいね? 次の生徒は前に出るように私が声をかけるから……。みんな下がって、さあ、ネビルが間違いなくやっつけられるように――」
みんな後ろに下がって壁かべにぴったり張はりつき、ネビルが一人、洋箪笥のそばに取り残された。恐きょう怖ふに青ざめてはいたが、ネビルはローブの袖そでをたくし上げ、杖を構かまえていた。