「ああ、なんてこと――」ハーマイオニーが絶ぜっ叫きょうしてハリーの腕うでをつかんだ。
「太った婦人レディ」は肖像画から消え去り、絵はめった切りにされて、キャンバスの切れ端はしが床に散らばっていた。絵のかなりの部分が完全に切り取られている。
ダンブルドアは、無残むざんな姿の肖像画をひと目見るなり、暗い深しん刻こくな目で振り返った。マクゴナガル、ルーピン、スネイプの先生方が、ダンブルドア校長のほうに駆かけつけてくるところだった。
「『婦人レディ』を探さなければならん」ダンブルドアが言った。
「マクゴナガル先生。すぐにフィルチさんのところに行って、城中の絵の中を探すよう言ってくださらんか」
「見つかったらお慰なぐさみ!」甲かん高だかいしわがれ声がした。
ポルターガイストのピーブズだ。みんなの頭上をひょこひょこ漂ただよいながら、いつものように、大だい惨さん事じや心配事がうれしくてたまらない様子だ。
「ピーブズ、どういうことかね?」
ダンブルドアは静かに聞いた。ピーブズはニヤニヤ笑いをちょっと引っ込こめた。さすがのピーブズもダンブルドアをからかう勇気はない。ねっとりした作り声で話したが、いつもの甲かん高だかい声よりなお悪かった。
「校長閣下かっか、恥ずかしかったのですよ。見られたくなかったのですよ。あの女はズタズタでしたよ。五階の風ふう景けい画がの中を走ってゆくのを見ました。木にぶつからないようにしながら走ってゆきました。ひどく泣き叫さけびながらね」
うれしそうにそう言い、「おかわいそうに」と白しら々じらしくも言い添そえた。
「『婦人レディ』は誰がやったか話したかね?」ダンブルドアが静かに聞いた。
「ええ、たしかに。校長閣下」大きな爆ばく弾だんを両りょう腕うでに抱きかかえているような言い種ぐさだ。
「そいつは、『婦人レディ』が入れてやらないんでひどく怒っていましたねえ」
ピーブズはくるりと宙ちゅう返がえりし、自分の足の間からダンブルドアに向かってニヤニヤした。
「あいつは癇かん癪しゃく持ちだねえ。あのシリウス・ブラックは」