しかし、雨は「ちょっとぐらい」どころではなかった。それでも、なにしろ大人気のクィディッチのことなので、学校中がいつものように試合を見に外に出た。荒れ狂う風に向かってみんな頭を低く下げ、競きょう技ぎ場じょうまでの芝生しばふを駆かけ抜けたが、傘は途中で手からもぎ取られるように吹き飛ばされた。ロッカールームに入る直前、マルフォイ、クラッブ、ゴイルが巨大な傘をさして競技場に向かいながら、ハリーを指差ゆびさして笑っているのが見えた。
チーム全員が紅くれないのユニフォームに着き替がえて、いつものように試合前のウッドの激げき励れい演えん説ぜつを待った。しかし、演説はなしだった。ウッドは何度か話しだそうとしたが、何かを飲み込こむような奇き妙みょうな音を出し、力なく頭を振り、みんなについてこいと合図あいずした。
ピッチに出ていくと、風のものすごさに、みんな横よこ様ざまによろめいた。耳をつんざく雷らい鳴めいがまたしても鳴り渡わたり、観かん衆しゅうが声せい援えんしていても、かき消されて耳には入らなかった。雨がハリーのメガネを打った。こんな中でどうやってスニッチを見つけられるというのか?
ピッチの反対側から、カナリア・イエローのユニフォームを着たハッフルパフの選手が入場した。キャプテン同士が歩みよって握あく手しゅした。ディゴリーは微笑ほほえんだが、ウッドは口が開かなくなったかのように頷うなずいただけだった。ハリーの目には、フーチ先生の口の形が、「箒ほうきに乗って」と言っているように見えた。ハリーは右足を泥どろの中からズボッと抜き、ニンバス2000に跨またがった。フーチ先生がホイッスルを唇くちびるに当て、吹いた。鋭するどい音が遠くのほうに聞こえた。――試合開始だ。
ハリーは急上昇したが、ニンバスが風に煽あおられてやや流れた。できるだけまっすぐ箒を握にぎりしめ、目を細め、雨を透すかして方向を見定めながらハリーは飛んだ。