「こいつをかけてたら、僕ぼく、全然だめだよ」
メガネをブラブラさせながら、ハリーが腹立はらだたしげに言った。
ちょうどその時、ハーマイオニーがハリーのすぐ後ろに現れた。マントを頭からすっぽりかぶって、なんだかにっこりしている。
「ハリー、いい考えがあるの。メガネをよこして。早く!」
ハリーはメガネを渡わたした。チーム全員がなんだろうと見守る中で、ハーマイオニーはメガネを杖つえでコツコツ叩たたき、呪じゅ文もんを唱となえた。
「インパービアス! 防ぼう水すいせよ!」
「はい!」ハーマイオニーはメガネをハリーに返しながら言った。「これで水を弾はじくわ!」
ウッドはハーマイオニーにキスしかねない顔をした。
「よくやった!」
ハーマイオニーがまた観かん衆しゅうの中に戻もどっていく後ろ姿に向かって、ウッドがガラガラ声で叫さけんだ。
「オーケー。さあみんな、しまっていこう!」
ハーマイオニーの呪じゅ文もんは抜ばつ群ぐんに効きいた。ハリーは相変あいかわらず寒さでかじかんでいたし、こんなに濡れたことはないというほどびしょ濡れだったが、とにかく目は見えた。気持を引きしめ、ハリーは乱らん気き流りゅうの中で箒ほうきに活かつを入れた。スニッチを探して四方八方に目を凝こらし、ブラッジャーを避よけ、反対側からシューッと飛んできたディゴリーの下をかいくぐり……。
また雷かみなりがバリバリッと鳴り、樹じゅ木もくのように枝分かれした稲いな妻ずまが走った。ますます危険きけんになってきた。早くスニッチを捕つかまえなければ――。
ピッチの中心に戻もどろうとして、ハリーは向きを変えた。そのとたんピカッときた稲妻がスタンドを照らし、ハリーの目に何かが飛び込んできた。――巨大な毛むくじゃらの黒い犬が、空をバックに、くっきりと影絵かげえのように浮かび上がったのだ。一番上の誰もいない席せきに、じっとしている。ハリーは完全に集中力を失った。
かじかんだ指が箒の柄えを滑すべり落ち、ニンバスはずんと一メートルも落下した。頭を振って目にかかったぐしょ濡れの前まえ髪がみを払い、ハリーはもう一度スタンドのほうをじっと見た。犬の姿は消えていた。