授業は楽しかった。ルーピン先生はガラス箱に入った「おいでおいで妖精ヒンキーパンク」を持ってきていた。一本足で、鬼火おにびのように幽かすかで、儚はかなげで、害のない生き物に見えた。
「これは旅人を迷わせて沼地ぬまちに誘さそう」
ルーピン先生の説明を、みんなノートに書き取った。
「手にカンテラをぶら下げているのがわかるね? 目の前をピョンピョン跳とぶ――人がそれについていく――すると――」
「おいでおいで妖精」はガラスにぶつかってガボガボと音をたてた。
終しゅう業ぎょうのベルが鳴り、みんな荷物をまとめて出口に向かった。ハリーもみんなと一いっ緒しょだったが、「ハリー、ちょっと残ってくれないか」とルーピンが声をかけた。
「話があるんだ」
ハリーは戻もどって、ルーピン先生が「おいでおいで妖精ヒンキーパンク」の箱を布で覆おおうのを眺ながめていた。
「試合のことを聞いたよ」
ルーピン先生は机のほうに戻り、本をカバンに詰つめ込こみはじめた。
「箒ほうきは残念だったね。修しゅう理りすることはできないのかい?」
「いいえ。あの木がこなごなにしてしまいました」ハリーが答えた。
ルーピンはため息をついた。
「あの『暴あばれ柳やなぎ』は、私がホグワーツに入学した年に植うえられた。みんなで木に近づいて幹みきに触ふれられるかどうかゲームをしたものだ。しまいにデイビィ・ガージョンという男の子が危あやうく片目を失いかけたものだから、あの木に近づくことは禁止きんしされてしまった。箒などひとたまりもないだろうね」
「先生は吸ディ魂メン鬼ターのこともお聞きになりましたか?」
ハリーは言いにくそうに、これだけ言った。
ルーピンはチラッとハリーを見た。
「ああ。聞いたよ。ダンブルドア校長があんなに怒ったのは誰も見たことがないと思うね。吸魂鬼たちは近ごろ日ひ増ましに落ちつかなくなっていたんだ。……校庭内に入れないことに腹を立ててね。……たぶん君は連中が原因で落ちたんだろうね」
「はい」そう答えたあと、ハリーはちょっと迷ったが、がまんできずに質問が、思わず口から飛び出した。
「いったいどうして? どうして吸魂鬼は僕ぼくだけにあんなふうに? 僕がただ――?」
「弱いかどうかとはまったく関係ない」
ルーピン先生は、まるでハリーの心を見み透すかしたかのようにビシッと言った。
「吸魂鬼がほかの誰よりも君に影えい響きょうするのは、君の過去に、誰も経けい験けんしたことがない恐きょう怖ふがあるからだ」