冬の陽よう光こうが教室を横切り、ルーピンの白はく髪はつとまだ若い顔に刻きざまれた皺しわを照らした。
「吸魂鬼は地上を歩く生物の中でももっとも忌いまわしい生物のひとつだ。もっとも暗く、もっとも穢けがれた場所にはびこり、凋ちょう落らくと絶ぜつ望ぼうの中に栄え、平和や希望、幸福を周まわりの空気から吸い取ってしまう。マグルでさえ、吸魂鬼の姿を見ることはできなくても、その存在は感じ取る。吸魂鬼に近づきすぎると、楽しい気分も幸福な想おもい出も、ひと欠けらも残さず吸い取られてしまう。やろうと思えば、吸魂鬼は相手を貪むさぼり続け、しまいには吸魂鬼自身と同じ状じょう態たいにしてしまうことができる――邪じゃ悪あくな魂たましいの抜け殻がらにね。心に最悪の経験だけしか残らない状態だ。そしてハリー、君の最悪の経験はひどいものだった。君のような目に遭あえば、どんな人間だって箒から落ちても不思議はない。君はけっして恥に思う必要はない」
「あいつらがそばに来ると――」
ハリーは喉のどを詰つまらせ、ルーピンの机を見つめながら話した。
「ヴォルデモートが僕ぼくの母さんを殺した時の声が聞こえるんです」
ルーピンは急に腕うでを伸ばし、ハリーの肩をしっかりとつかむかのような素そ振ぶりをしたが、思い直したように手を引っ込こめた。ふと沈ちん黙もくが漂ただよった。
「どうしてあいつらは、試合に来なければならなかったんですか?」
ハリーは悔くやしそうに言った。
「飢うえてきたんだ」
ルーピンはパチンとカバンを閉じながら冷れい静せいに答えた。
「ダンブルドアがやつらを校内に入れなかったので、餌食えじきにする人間という獲物えものが枯渇こかつしてしまった。……クィディッチ競きょう技ぎ場じょうに集まる大だい観かん衆しゅうという魅み力りょくに抗こうしきれなかったのだろう。あの大だい興こう奮ふん……感情の高まり……やつらにとってはご馳走ちそうだ」
「アズカバンはひどいところでしょうね」ハリーがつぶやくと、ルーピンは暗い顔で頷うなずいた。
「海のかなたの孤島ことうに立つ要よう塞さいだ。しかし、囚しゅう人じんを閉じ込こめておくには、周囲が海でなくとも、壁かべがなくてもいい。ひと欠けらの楽しさも感じることができず、みんな自分の心の中に閉じ込められているのだから。数週間も入っていれば、ほとんどみな気が狂う」
「でも、シリウス・ブラックはあいつらの手を逃のがれました。脱だつ獄ごくを……」
ハリーは考えながら話した。