カバンが机から滑すべり落ち、ルーピンはすっと屈かがんでそれを拾い上げた。
「たしかに」
ルーピンは身を起こしながら言った。
「ブラックはやつらと戦う方法を見つけたに違いない。そんなことができるとは思いもしなかった……長期間吸魂鬼と一いっ緒しょにいたら、魔法使いは力を抜き取られてしまうはずだ……」
「先生は汽車の中であいつを追い払いました」ハリーは急に思い出した。
「それは――防ぼう衛えいの方法がないわけではない。しかし、汽車に乗っていた吸魂鬼は一人だけだった。数が多くなればなるほど抵てい抗こうするのが難しくなる」
「どんな防衛法ですか?」
ハリーはたたみかけるように聞いた。
「教えてくださいませんか?」
「ハリー、私はけっして吸魂鬼と戦う専せん門もん家かではない。それはまったく違う……」
ルーピンはハリーの思いつめた顔を見つめ、ちょっと迷った様子で言った。
「でも、吸魂鬼がまたクィディッチ試合に現れたとき、僕はやつらと戦うことができないと――」
「そうか……よろしい。なんとかやってみよう。だが、来学期まで待たないといけないよ。休きゅう暇かに入る前にやっておかなければならないことが山ほどあってね。まったく私は都合つごうの悪い時に病気になってしまったものだ」
ルーピンが吸魂鬼ディメンター防ぼう衛えい術じゅつを教えてくれる約束をしてくれたので、二度と母親の最期さいごの声を聞かずにすむかもしれないと思い、さらに十一月の終わりに、クィディッチでレイブンクローがハッフルパフをペシャンコに負かしたこともあって、ハリーの気持は着実に明るくなってきた。グリフィンドールはもう一試合も負けるわけにはいかなかったが、まだ優勝争いから脱だつ落らくしてはいなかった。ウッドは再びあの狂ったようなエネルギーを取り戻もどし、煙けぶるような冷たい雨の中、いままでにも増してチームをしごいた。雨は十二月まで降ふり続いた。ハリーの見るところ、校内には吸魂鬼の影かげすらなかった。ダンブルドアの怒りが、吸魂鬼を持ち場である学校の入口に縛しばりつけているようだった。