果てしない時間だった。しかしハニーデュークスに行くんだという思いがハリーの支えになっていた。一時間も経たったかと思えるころ、上り坂になった。あえぎあえぎ、ハリーは足を速めた。顔が火ほ照てり、足は冷えきっていた。
十分後、ハリーは石段の下に出た。古びた石段が上へと伸び、先せん端たんは見えなかった。物音を立てないように注意しながら、ハリーは上りはじめた。百段、二百段、もう何段上ったのかわからない。ハリーは足元に気をつけながら上っていった。……すると、何の前触まえぶれもなしに、ゴツンと頭が固いものにぶつかった。
天井は観かん音のん開びらきの撥はね戸どになっているようだ。ハリーは頭のてっぺんをさすりながらそこにじっと立って、耳を澄すました。上からは何の物音も聞こえない。ハリーはゆっくりゆっくり撥ね戸を押し開け、外を覗のぞき見た。
倉庫の中だった。木箱きばこやケースがびっしり置いてある。ハリーは撥はね戸どから外に出て、戸を元どおりに閉めた。――戸は埃ほこりっぽい床にすっかりなじんで、そこにそんなものがあるとはとてもわからないぐらいだった。ハリーは、上階に続く木の階段に向かってゆっくりと這はっていった。今度ははっきりと声が聞こえる。チリンチリンとベルが鳴る音も、ドアが開いたり閉まったりする音までも聞こえる。
どうしたらいいのかと迷っていると、急にすぐ近くのドアが開く音が聞こえた。誰かが階段を下りてくるところらしい。
「『ナメクジゼリー』をもう一箱お願いね、あなた。あの子たちときたら、店中ごっそり持っていってくれるわ――」女の人の声だ。
男の足が二本、階段を下りてきた。ハリーは大きな箱の陰かげに飛び込こみ、足音が通り過ぎるのを待った。男が向こう側の壁かべに立て掛かけてある箱をいくつか動かしている音が聞こえた。このチャンスを逃のがしたらあとはない。