ハリーは素早すばやく、しかも音をたてずに、隠れていた場所から抜け出し、階段を上った。振り返ると、でかい尻と箱の中に突っ込んだピカピカの禿はげ頭あたまが見えた。ハリーは階段上うえのドアまでたどり着き、そこからするりと出た。ハニーデュークス店のカウンター裏うらだった。――ハリーは頭を低くして横よこ這ばいに進み、そして立ち上がった。
ハニーデュークスの店内は人でごった返していて、誰もハリーを見咎みとがめなかった。ハリーは人混ひとごみの中をすり抜けながらあたりを見回した。いまハリーがどんなところにいるかをダドリーがひと目見たら、あの豚ぶた顔がおがどんな表情をするだろうと思うだけで笑いが込み上げてきた。
棚たなという棚には、噛かんだらじゅっと甘い汁の出そうな菓子か しがずらりと並んでいた。ねっとりしたヌガー、ピンク色に輝かがやくココナッツ・キャンディ、蜂はち蜜みつ色のぷっくりしたタフィー。手前のほうにはきちんと並べられた何百種しゅ類るいものチョコレート、百ひゃく味みビーンズが入った大きな樽たる、ロンの話していた浮上炭たん酸さんキャンディ、フィフィ・フィズビーの樽。別の壁一いっ杯ぱいに「特とく殊しゅ効果こうか」と書かれた菓子の棚がある。――「ドルーブル風船ガム」(部屋一杯にリンドウ色の風船が何個も広がって何日も頑固がんこに膨ふくれっぱなし)、ボロボロ崩くずれそうな、へんてこりんな「歯みがき糸いと楊枝ようじ型がたミント」、豆まめ粒つぶのような「黒くろ胡こ椒しょうキャンディ」(「君の友達のために火を吹いて見せよう!」)、「ブルブル・マウス」(「歯がガチガチ、キーキー鳴るのが聞こえるぞ!」)、「ヒキガエル型がたペパーミント」(「胃の中で本物そっくりに跳とぶぞ!」)、脆もろい「綿わた飴あめ羽根は ねペン」、「爆ばく発はつボンボン」――――。