ピカピカのハイヒールが元気よく遠ざかり、また戻もどってくるのが見えた。ハリーの心臓は喉のどのあたりでいやな感じに動悸どうきを打っていた。どうして気がつかなかったんだろう? 先生方にとっても今日は今学期最後の週末だったのに。先生方はどのくらいの時間ここでねばるつもりだろう? 今夜ホグワーツに戻もどるなら、ここを抜け出してこっそりハニーデュークス店に戻る時間が必要だ。……ハリーの脇わきで、ハーマイオニーの足が神しん経けい質しつにぴくりとした。
「それで、大臣、どうしてこんな片かた田舎いなかにお出ましになりましたの?」
マダム・ロスメルタの声だ。
誰か立ち聞きしていないかチェックしている様子で、ファッジの太った体が椅子の上で捩よじれるのが見えた。それからファッジは低い声で言った。
「ほかでもない、シリウス・ブラックの件でね。ハロウィーンの日に、学校で何が起こったかは、うすうす聞いているんだろうね?」
「噂うわさはたしかに耳にしてますわ」マダム・ロスメルタが認めた。
「ハグリッド、あなたはパブ中に触ふれ回ったのですか?」
マクゴナガル先生が腹立はらだたしげに言った。
「大だい臣じん、ブラックがまだこのあたりにいるとお考えですの?」
マダム・ロスメルタが囁ささやくように言った。
「間違いない」ファッジがきっぱりと言った。
「吸ディ魂メン鬼ターがわたしのパブの中を二度も探し回っていったことをご存知ぞんじかしら?」
マダム・ロスメルタの声には少しとげとげしさがあった。
「お客様が怖こわがってみんな出ていってしまいましたわ……大臣、商売あがったりですのよ」
「ロスメルタのママさん。私だって君と同じで、連中が好きなわけじゃない」
ファッジもバツの悪そうな声を出した。
「用心に越こしたことはないんでね……残念だがしかたがない。……つい先ほど連中に会った。ダンブルドアに対して猛もう烈れつに怒っていてね。――ダンブルドアが城の校内に連中を入れないんだ」