「ハグリッド、バカを言うもんじゃない」ファッジが厳きびしく言った。
「魔ま法ほう警けい察さつ部ぶ隊たいから派遣はけんされる訓くん練れんされた『特とく殊しゅ部ぶ隊たい』以外は、追いつめられたブラックに太た刀ち打うちできる者はいなかったろう。私はその時、魔法まほう惨事さんじ部ぶの次官じかんだったが、ブラックがあれだけの人間を殺したあとに現場に到とう着ちゃくした第だい一いち陣じんの一人だった。私は、あの――あの光景が忘れられない。いまでもときどき夢に見る。道の真ん中に深くえぐれたクレーター。その底のほうで下水管に亀裂きれつが入っていた。死体が累るい々るい。マグルたちは悲鳴ひめいをあげていた。そして、ブラックがそこに仁に王おう立だちになり笑っていた。その前にペティグリューの残ざん骸がいが……血だらけのローブとわずかの……わずかの肉にく片へんが――」
ファッジの声が突とつ然ぜん途と切ぎれた。鼻をかむ音が五人分聞こえた。
「さて、そういうことなんだよ、ロスメルタ」ファッジがかすれた低い声で言った。
「ブラックは魔法警察部隊が二十人がかりで連行し、ペティグリューは勲くん一いっ等とうマーリン勲くん章しょうを授じゅ与よされた。哀あわれなお母はは上うえにとってはこれが少しは慰なぐさめになったことだろう。ブラックはそれ以来ずっとアズカバンに収しゅう監かんされていた」
マダム・ロスメルタは長いため息いきをついた。
「大だい臣じん、ブラックは狂ってるというのは本当ですの?」
「そう言いたいがね」ファッジは考えながらゆっくり話した。
「『ご主しゅ人じん様さま』が敗北したことで、たしかにしばらくは正気を失っていたと思うね。ペティグリューやあれだけのマグルを殺したというのは、追いつめられて自じ暴ぼう自じ棄きになった男の仕業しわざだ。――残ざん忍にんで……何の意味もない。しかしだ、先日、私がアズカバンの見回りにいった時、ブラックに会ったんだが、なにしろ、あそこの囚しゅう人じんは大おお方かたみんな暗い中に座り込こんで、ブツブツ独ひとり言ごとを言っているし、正気じゃない……ところが、ブラックがあまりに正常なので私はショックを受けた。私に対してまったく筋すじの通った話し方をするんで、なんだか意い表ひょうを衝つかれた気がした。ブラックは単に退たい屈くつしているだけなように見えたね。――私に、新聞を読み終わったならくれないかと言った。洒落しゃれてるじゃないか、クロスワードパズルが懐なつかしいからと言うんだよ。ああ、大いに驚きましたとも。吸ディ魂メン鬼ターがほとんどブラックに影えい響きょうを与えていないことにね。――しかもブラックはあそこでもっとも厳きびしく監視かんしされている囚人の一人だったのでね、そう、吸魂鬼が昼も夜もブラックの独どく房ぼうのすぐ外にいたんだ」