同じ人間だと知らなかったら、この古い写真の人がブラックだとはとうてい思えなかっただろう。写真の顔はやせこけた蝋ろうのような顔ではなく、ハンサムで、溢あふれるような笑顔だった。この写真を撮とった時には、もうヴォルデモートの下で働いていたのだろうか? 隣となりにいる二人の死を企くわだてていたのだろうか? 十二年間ものアズカバン虜りょ囚しゅうが待ち受けていると、わかっていたのだろうか? 自みずからを見る影かげもない姿に変える十二年間を。
しかし、この人は吸魂鬼ディメンターなんて平気なんだ。ハリーは快かい活かつに笑うハンサムな顔を見つめた。吸魂鬼がそばに来ても、この人は僕ぼくの母さんの悲鳴ひめいを聞かなくてすむんだ――。
ハリーはアルバムをぴしゃりと閉じ、手を伸ばしてそれを書類棚に戻し、ローブを脱ぎ、メガネをはずし、周りのカーテンで誰からも見えないことを確かめて、ベッドに潜もぐり込こんだ。
寝室のドアが開いた。
「ハリー?」遠えん慮りょがちに、ロンの声がした。
ハリーは寝ねたふりをしてじっと横たわっていた。ロンがまた出ていく気配がした。ハリーは目を大きく見開いたまま、寝返りを打ち、仰向あおむけになった。
経験したことのない烈はげしい憎にくしみが、毒どくのようにハリーの体中を回っていった。まるであのアルバムの写真を誰かがハリーの目に貼はりつけたかのように、ハリーには暗くら闇やみを透すかして、ブラックの笑う姿が見えた。誰かが映画の一ひとこまをハリーに見せてくれているかのように、シリウス・ブラックがピーター・ペティグリュー(なぜかネビル・ロングボトムの顔が重なった)を粉こな々ごなにする場面を、ハリーは見た。低い、興こう奮ふんした囁ささやきが(ブラックの声がどんな声なのかまったくわからなかったが)、ハリーには聞こえた。
「やりました。ご主しゅ人じん様さま……ポッター夫妻ふさいがわたしを『秘密ひみつの守もり人びと』にしました……」
それに続いてもう一つの声が聞こえる。甲かん高だかい笑いだ。吸魂鬼ディメンターが近づくたびにハリーの頭の中で聞こえるあの高笑いだ……。