ハグリッドはふと黙だまりこくって、ゴクリと茶を飲んだ。ハリー、ロン、ハーマイオニーは息をひそめてハグリッドを見つめた。三人とも、ハグリッドが、短い期間だが、アズカバンに入れられたあの時のことを話すのを聞いたことがなかった。やや間まをおいて、ハーマイオニーが遠えん慮りょがちに聞いた。
「ハグリッド、恐ろしいところなの?」
「想像もつかんだろう」ハグリッドはひっそりと言った。
「あんなとこは行ったことがねえ。気が狂うかと思ったぞ。ひどい想おもい出ばっかしが思い浮かぶんだ……ホグワーツを退たい校こうになった日……親父おやじが死んだ日……ノーバートが行っちまった日……」
ハグリッドの目に涙が溢あふれた。ノーバートは、ハグリッドが賭かけトランプで勝って、手に入れた赤ちゃんドラゴンだ。
「しばらくすっと、自分が誰だか、もうわからねえ。そんで、生きててもしょうがねえって気になる。寝ねてるうちに死んでしまいてえって、俺はそう願ったもんだ。……釈しゃく放ほうされたときゃ、もう一度生まれたような気分だった。いろんなことが一度にどぉっと戻もどってきてな。こんないい気分はねえぞ。そりゃあ、吸魂鬼ディメンターのやつら、俺を釈放するのはしぶったもんだ」
「だけど、あなたは無実だったのよ!」ハーマイオニーが言った。
ハグリッドがフンと鼻を鳴らした。
「連中の知ったことか? そんなこたぁ、どーでもええ。二、三百人もあそこにぶち込まれていりゃ、連中はそれでええ。そいつらにしゃぶりついて、幸福ちゅうもんを全部吸い出してさえいりゃ、誰が有ゆう罪ざいで、誰が無罪かなんて、連中にはどっちでもええ」
ハグリッドはしばらく自分のマグカップを見つめたまま、黙だまっていた。それから、ぼそりと言った。
「バックビークをこのまんま逃がそうと思った。……遠くに飛んでいけばええと思った。……だけんどどうやってヒッポグリフに言い聞かせりゃええ? どっかに隠れていろって……ほんで――法ほう律りつを破るのが俺は怖こわい……」
三人を見たハグリッドの目から、また涙がボロボロ流れ、顔を濡ぬらした。
「俺は二度とアズカバンに戻りたくねえ」