「守護霊は一種のプラスのエネルギーで、吸魂鬼はまさにそれを貪むさぼり食らって生きる――希望、幸福、生きようとする意欲いよくなどを。――しかし守護霊は本物の人間なら感じる絶ぜつ望ぼうというものを感じることができない。だから吸魂鬼は守護霊を傷きずつけることもできない。ただし、ハリー、一ひと言こと言っておかねばならないが、この呪文は君にはまだ高度すぎるかもしれない。一人前の魔法使いでさえ、この魔法にはてこずるほどだ」
「守護霊パトローナスってどんな姿をしているのですか?」ハリーは知りたかった。
「それを創つくり出す魔法使いによって、一つひとつが違ちがうものになる」
「どうやって創り出すのですか?」
「呪じゅ文もんを唱となえるんだ。何か一つ、一番幸せだった想おもい出を、渾こん身しんの力で思いつめたときに、初めてその呪文が効きく」
ハリーは幸せな想い出をたどってみた。ダーズリー家けでハリーの身に起こったことは、何一つそれに当てはまらないことだけは確かだ。やっと、初めてに箒ほうきに乗った、あの瞬しゅん間かんだ、と決めた。
「わかりました」
ハリーは体を突き抜けるような、あのすばらしい飛ひ翔しょう感かんをできるだけ忠ちゅう実じつに思い浮かべようとした。
「呪文はこうだ――」ルーピンは咳せき払ばらいをしてから唱えた。
「エクスペクト・パトローナム、守護霊よ来たれ!」
「エクスペクト・パトローナム」ハリーは小声で繰くり返した。「守護霊よ来たれ」
「幸せな想い出に神しん経けいを集中してるかい?」
「ええ――はい――」ハリーはそう答えて、急いであの箒の初乗りの心に戻もどろうとした。
「エクスペクト・パトロノ――違った、パトローナム――すみません――エクスペクト・パトローナム、エクスペクト・パトローナム――」
杖つえの先から、何かが急にシューッと噴ふき出した。一ひと条すじの銀色の煙のようなものだった。
「見えましたか?」ハリーは興こう奮ふんした。「何か、出てきた!」
「よくできた」ルーピンが微笑ほほえんだ。「よーし、それじゃ――吸魂鬼ディメンターで練習してもいいかい?」