ロンはにわかに英雄になった。ハリーではなくロンのほうに注意が集まるのは、ロンにとって初めての経験だ。ロンがそれをかなり楽しんでいるのは明らかだった。あの夜の出で来き事ごとで、ロンはまだずいぶんショックを受けてはいたが、聞かれれば誰にでも、うれしそうに、微びに入り細さいをうがって語って聞かせた。
「……僕が寝ねてたら、ビリビリッて何かを引き裂さく音がして、僕、夢だろうって思ったんだ。だってそうだよね? だけど、隙すき間ま風かぜがさーっときて……僕、眼が覚めた。ベッドのカーテンの片側が引きちぎられてて……僕、寝返りを打ったんだ……そしたら、ブラックが僕の上に覆おおいかぶさるように立ってたんだ。……まるでどろどろの髪かみを振り乱した骸がい骨こつみたいだった……こーんなに長いナイフを持ってた。刃渡はわたり三十センチぐらいはあったな……それで、あいつは僕を見た。僕もあいつを見た。そして僕が叫さけんで、あいつは逃げていった」
「だけど、どうしてかなぁ?」怖こわがりながらもロンの話に聞きほれていた二年の女子学生がいなくなってから、ロンはハリーに向かって言った。
「どうしてとんずらしたんだろう?」
ハリーも同じことを疑問に思っていた。狙ねらうベッドを間違えたなら、ロンの口を封ふうじて、それからハリーに取りかかればいいのに、どうしてだろう? ブラックが罪もない人を殺しても平気なのは、十二年前の事件で証しょう明めいずみだ。今度はたかが男の子五人。武器も持っていない。しかもそのうち四人は眠っていたじゃないか。ハリーは考えながら答えた。
「君が叫さけんで、みんなを起こしてしまったら、城を出るのがひと苦労だってわかってたんじゃないかな。肖しょう像ぞう画がの穴を通って出るのに、ここの寮りょう生せいを皆殺しにしなけりゃならなかったかもしれない。……そのあとは、先生たちに見つかってしまったかもしれない……」