数秒経たって、やっと、ハリーは試合がまだ始まっていないこと、自分が安全にベッドに寝ていること、スリザリン・チームがドラゴンに乗ってプレイするなど、絶ぜっ対たい許されるはずがないことなどに気づいた。とても喉のどが渇かわいていた。ハリーはできるだけそっと四よん本ほん柱ばしらのベッドを抜け出し、窓の下に置いてある銀の水差みずさしから水を飲もうと窓辺まどべに近よった。
校庭はしんと静まり返っていた。「禁きんじられた森」の木々の梢こずえはそよともせず、「暴あばれ柳やなぎ」は何食わぬ様子で、じっと動かない。どうやら、試合の天てん候こうは完かん璧ぺきのようだ。
ハリーはコップを置き、ベッドに戻ろうとした。その時、何かが目を引いた。銀色の芝生しばふを動物らしいものが一匹うろついている。
ハリーは全速力でベッドに戻もどり、メガネを引っつかんで掛かけ、急いで窓まど際ぎわに戻った。死グ神リ犬ムであるはずがない。――いまはだめだ――試合の直前だというのに――。
ハリーはもう一度校庭をじっと見た。一分ほど必死ひっしで見回し、その姿を見つけた。今度は「森」の際きわに沿って歩いている……。死神犬とはまったく違う。……猫だ……瓶びん洗あらいブラシのような尻尾しっぽを確認して、ハリーはほっと窓まど縁べりを握にぎりしめた。ただのクルックシャンクスだ……。
いや、本当にただのクルックシャンクスだったろうか? ハリーは窓ガラスに鼻をぴったり押しつけ、目を凝こらした。クルックシャンクスが立ち止まったように見えた。何か、木々の影かげの中で動いているものが他にいる。ハリーにはたしかにそれが見えた。
次の瞬しゅん間かん、それが姿を現した。もじゃもじゃの毛の巨きょ大だいな黒い犬だ。それは音もなく芝生しばふを横切り、クルックシャンクスがその脇わきをトコトコ歩いている。ハリーは目を見み張はった。いったいどういうことなんだろう? クルックシャンクスにもあの犬が見えるなら、あの犬がハリーの死の予よ兆ちょうだといえるのだろうか?
「ロン!」ハリーは声を殺して呼んだ。「ロン! 起きて!」
「ウーン?」
「君にも何か見えるかどうか、見てほしいんだ!」
「まだ真っ暗だよ、ハリー」ロンがどんよりとつぶやいた。「何を言ってるんだい?」
「こっちに来て――」
ハリーは急いで振り返り、窓の外を見た。
クルックシャンクスも犬も消え去っていた。ハリーは窓まど枠わくによじ登って、真下の城しろ影かげの中を覗のぞき込こんだが、そこにもいなかった。いったいどこに行ったのだろう?
大きないびきが聞こえた。ロンはまた寝ね入いったらしい。
“罗恩!”哈利低声叫道,“罗恩!醒醒!”