ハリーはブラックに馬乗りになるような位置で止まった。杖をブラックの胸に向けたまま、ハリーはブラックを見下ろした。ブラックの左目の周まわりが黒くあざになり、鼻血を流している。
「おまえは僕ぼくの両親を殺した」
ハリーの声は少し震ふるえていたが、杖つえ腕うでは微動びどうだにしなかった。
ブラックは落ち窪くぼんだ目でハリーをじっと見上げた。
「否定はしない」ブラックは静かに言った。「しかし、君がすべてを知ったら――」
「すべて?」
怒りで耳の中がガンガン鳴っていた。
「おまえは僕ぼくの両親をヴォルデモートに売った。それだけ知ればたくさんだ!」
「聞いてくれ」
ブラックの声には緊きん迫ぱくしたものがあった。
「聞かないと、君は後こう悔かいする……君にはわかっていないんだ……」
「おまえが思っているより、僕はたくさん知っている」ハリーの声がますます震ふるえた。
「おまえはあの声を聞いたことがないんだ。僕の母さんが……ヴォルデモートが僕を殺すのを止めようとして……。おまえがやったんだ……おまえが……」
どちらも次の言葉を言わないうちに、何かオレンジ色のものがハリーのそばをさっと通り抜けた。クルックシャンクスがジャンプしてブラックの胸の上に陣取じんどったのだ。ブラックの心臓の真上だ。ブラックは目を瞬しばたいて猫を見下ろした。
「どけ」ブラックはそうつぶやくと、クルックシャンクスを払いのけようとした。
しかし、クルックシャンクスはブラックのローブに爪つめを立て、てこでも動かない。つぶれたような醜みにくい顔をハリーに向け、クルックシャンクスは大きな黄色い目でハリーを見上げた。その右のほうで、ハーマイオニーが涙を流さずにしゃくり上げた。