「噛まれたのは私がまだ小さいころだった。両親は手を尽つくしたが、あのころは治ち療りょう法ほうがなかった。スネイプ先生が私に調ちょう合ごうしてくれた魔法薬は、ごく最近発明されたばかりだ。あの薬で私は無害になる。わかるね。満月の夜の前の一週間、あれを飲みさえすれば、変身しても自分の心を保つことができる……。自分の事じ務む所しょで丸まっているだけの、無害な狼おおかみでいられる。そして再び月が欠けはじめるのを待つ」
「トリカブト系の脱だつ狼ろう薬やくが開発されるまでは、私は月に一度、完全に成せい熟じゅくした怪かい物ぶつに成り果てた。ホグワーツに入学するのは不可能だと思われた。他の生徒の親にしてみれば、自分の子供を、私のような危険きけんなものにさらしたくないはずだ」
「しかし、ダンブルドア先生が校長になって、私に同情してくださった。きちんと予よ防ぼう措そ置ちを取りさえすれば、私が学校に来てはいけない理由などないと、ダンブルドアはおっしゃった……」
ルーピンはため息をついた。そしてまっすぐにハリーを見た。
「何ヵ月も前に君に言ったと思うが、『暴あばれ柳やなぎ』は、私がホグワーツに入学した年に植うえられた。本当を言うと、私がホグワーツに入学したから植えられたのだ。この屋敷やしきは――」
ルーピンはやるせない表情で部屋を見回した。
「――ここに続くトンネルは――私が使うために作られた。一ヵ月に一度、私は城からこっそり連れ出され、変身するためにここに連れてこられた。私が危険な状じょう態たいにある間は、誰も私に出会わないようにと、あの木がトンネルの入口に植えられた」
ハリーはこの話がどういう結けつ末まつになるのか、見当がつかなかった。にもかかわらず、ハリーは話にのめり込こんでいた。ルーピンの声の他に聞こえるものといえば、スキャバーズが怖こわがってキーキー鳴く声だけだった。