「復ふく讐しゅうは蜜みつより甘い」スネイプが囁ささやくようにブラックに言った。
「おまえを捕つかまえるのが我輩であったらと、どんなに願ったことか……」
「お生あい憎にくだな」ブラックが憎々しげに言った。
「しかしだ、この子がそのネズミを城まで連れていくなら――」ブラックはロンを顎あごで指した。「――それならわたしはおとなしくついて行くがね……」
「城までかね?」スネイプがいやに滑なめらかに言った。
「そんなに遠くに行く必要はないだろう。『柳やなぎ』の木を出たらすぐに、我輩が吸魂鬼ディメンターを呼べばそれですむ。連中は、ブラック、君を見てお喜びになることだろう。……喜びのあまりキスをする。そんなところだろう……」
ブラックの顔にわずかに残っていた色さえ消え失うせた。
「聞け――最後まで、わたしの言うことを聞け」
ブラックの声がかすれた。
「ネズミだ――ネズミを見るんだ――」
しかし、スネイプの目には、ハリーがいままで見たこともない狂きょう気きの光があった。もはや理性りせいを失っている。
「来い、全員だ」
スネイプが指を鳴らすと、ルーピンを縛しばっていた縄目なわめの端はしがスネイプの手元に飛んできた。
「我わが輩はいが人じん狼ろうを引きずっていこう。吸魂鬼ディメンターがこいつにもキスしてくれるかもしれん――」
ハリーは我われを忘れて飛び出し、たった三歩で部屋を横切り、次の瞬しゅん間かんドアの前に立ちふさがっていた。
「どけ、ポッター。おまえはもう十分規則きそくを破っているんだぞ」スネイプが唸うなった。
「我輩がここに来ておまえの命を救っていなかったら――」
「ルーピン先生が僕ぼくを殺す機会きかいは、この一年に何百回もあったはずだ。僕は先生と二人きりで、何度も吸魂鬼ディメンター防ぼう衛えい術じゅつの訓練を受けた。もし先生がブラックの手先だったら、そういう時に僕を殺してしまわなかったのはなぜなんだ?」
「人狼がどんな考え方をするか、我輩に推おし量はかれとでも言うのか」
スネイプが凄すごんだ。
「どけ、ポッター」
「恥を知れ!」ハリーが叫さけんだ。
「学生時代に、からかわれたからというだけで、話も聞かないなんて――」
「黙だまれ! 我輩に向かってそんな口のきき方は許さん!」
スネイプはますます狂きょう気きじみて叫んだ。
「蛙かえるの子は蛙だな、ポッター! 我輩はいまおまえのその首を助けてやったのだ。ひれ伏ふして感謝するがいい! こいつに殺されれば、自じ業ごう自じ得とくだったろうに! おまえの父親と同じような死に方をしたろうに。ブラックのことで、親も子も自分が判はん断だんを誤あやまったとは認めない高こう慢まんさよ。――さあ、どくんだ。さもないと、どかせてやる。どくんだ、ポッター!」
ハリーは瞬しゅ時んじに意を決した。スネイプがハリーのほうに一歩も踏ふみ出さないうちに、ハリーは杖つえをかまえた。