ブラックはもう、スネイプの杖つえをベッドから拾い上げていた。ブラックが、ルーピンとジタバタするネズミに近づいた。涙で潤うるんだ目が、突とつ然ぜん燃え上がったかのようだった。
「一いっ緒しょにするか?」ブラックが低い声で言った。
「そうしよう」
ルーピンはスキャバーズを片手にしっかりつかみ、もう一方の手で杖を握にぎった。
「三つ数えたらだ。いち――に――さん!」
青白い光が二本の杖からほとばしった。一いっ瞬しゅん、スキャバーズは宙に浮き、そこに静止した。小さな黒い姿が激はげしく捩よじれた。――ロンが叫び声をあげた。――ネズミは床にボトリと落ちた。もう一度、目も眩くらむような閃せん光こうが走り、そして――。
木が育つのを早送りで見ているようだった。頭が床からシュッと上に伸び、手足が生はえ、次の瞬しゅん間かん、スキャバーズがいたところに、一人の男が、手を捩よじり、後ずさりしながら立っていた。クルックシャンクスがベッドで背中の毛を逆立さかだて、シャーッ、シャーッと激はげしい音を出し、唸うなった。
小柄こがらな男だ。ハリーやハーマイオニーの背丈せたけとあまり変わらない。まばらな色あせた髪かみはくしゃくしゃで、てっぺんに大きな禿はげがあった。太った男が急きゅう激げきに体重を失って萎しなびた感じだ。皮ひ膚ふはまるでスキャバーズの体毛と同じように薄うす汚よごれ、尖とがった鼻や、ことさら小さい潤うるんだ目には何となくネズミ臭くささが漂ただよっていた。男はハァハァと浅く、速い息いき遣づかいで、周まわりの全員を見回した。男の目が素早すばやくドアのほうに走り、また元に戻もどったのを、ハリーは目もく撃げきした。
「やあ、ピーター」
ネズミがにょきにょきと旧きゅう友ゆうに変身して身近に現れるのをしょっちゅう見慣れているかのような口ぶりで、ルーピンが朗ほがらかに声をかけた。