マダム・ポンフリーが、きびきびと暗い病室を歩き、今度はハリーのベッドにやってくる。ハリーは寝返りを打ってそちらを見た。マダム・ポンフリーはハリーが見たこともないような大きなチョコレートをひと塊かたまり手にしていた。ちょっとした小岩のようだ。
「おや、目が覚めたんですか!」
キビキビした声だ。チョコレートをハリーのベッド脇わきの小机に置き、マダム・ポンフリーはそれを小さいハンマーで細かく砕くだきはじめた。
「ロンは、どうですか?」ハリーとハーマイオニーが同時に聞いた。
「死ぬことはありません」
マダム・ポンフリーは深しん刻こくな表情で言った。
「あなたたち二人は……ここに入院です。わたしが大だい丈じょう夫ぶだというまで。――ポッター、何をしてるんですか?」
ハリーは上半身を起こし、メガネを掛かけ、杖つえを取り上げていた。
「校長先生にお目にかかるんです」ハリーが言った。
「ポッター」マダム・ポンフリーがなだめるように言った。
「大丈夫ですよ。ブラックは捕つかまえました。上の階に閉じ込められています。吸魂鬼デイメンターが間もなく『キス』を施ほどこします――」
「えーっ!」
ハリーはベッドから飛び降おりた。ハーマイオニーも同じだった。しかし、ハリーの叫さけび声が、廊下まで聞こえたらしく、次の瞬しゅん間かん、コーネリウス・ファッジとスネイプが病室に入ってきた。
「ハリー、ハリー、何事だね?」ファッジが慌あわてふためいて言った。
「寝ねてないといけないよ――ハリーにチョコレートをやったのかね?」
ファッジが心配そうにマダム・ポンフリーに聞いた。
「大だい臣じん、聞いてください! シリウス・ブラックは無実です! ピーター・ぺティグリューは自分が死んだと見せかけたんです! 今夜、ピーターを見ました! 大臣、吸魂鬼デイメンターにあれをやらせてはだめです。シリウスは――」
しかし、ファッジは微かすかに笑いを浮かべて首を振っている。
「ハリー、ハリー、君は混乱している。あんな恐ろしい試練しれんを受けたのだし。横になりなさい。さあ。すべて我われ々われが掌しょう握あくしているのだから……」
「してません!」ハリーが叫さけんだ。「捕つかまえる人を間違えています!」