「誰かが綱を解ほどいて逃がした!」死刑執行人が歯は噛がみした。「探さなければ。校庭や森や――」
「マクネア、バックビークが盗まれたのなら、盗ぬす人っとはバックビークを歩かせて連れていくと思うかね?」
ダンブルドアはまだおもしろがっているような声だった。
「どうせなら、空を探すがよい……ハグリッド、お茶を一いっ杯ぱいいただこうかの。ブランディをたっぷりでもよいの」
「は――はい、先生さま」ハグリッドは、うれしくて力が抜けたようだった。
「お入りくだせえ、さあ……」
ハリーとハーマイオニーはじっと耳をそばだてた。足音が聞こえ、死刑執行人がブツブツ悪あく態たいをつくのが聞こえ、戸がバタンと閉まり、それから再び静せい寂じゃくが訪おとずれた。
「さあ、どうする?」ハリーが周まわりを見回しながら囁ささやいた。
「ここに隠かくれていなきゃ」ハーマイオニーは張はりつめているようだった。
「みんなが城に戻もどるまで待たないといけないわ。それから、バックビークに乗ってシリウスのいる部屋の窓まで飛んでいっても安全だ、というまで待つの。シリウスはあと二時間ぐらいしないとそこにはいないのよ……ああ、とても難むずかしいことだわ……」
ハーマイオニーは振り返って、恐こわ々ごわ森の奥を見た。太陽がまさに沈もうとしていた。
「移動しなくちゃ」ハリーはよく考えて言った。「『暴あばれ柳やなぎ』が見えるところにいないといけないよ。じゃないと、何が起こっているのかわからなくなるし」
「オッケー」ハーマイオニーが、バックビークの手綱たづなをしっかり握りながら言った。
「でも、ハリー、忘れないで……私たち、誰にも見られないようにしないといけないのよ」
暗くら闇やみがだんだん色濃こく二人を包む中、二人は森のすそに沿って進み、「柳」が垣間かいま見える木立こだちの陰かげに隠れた。