「あの男、どうも精せい神しん不安定じゃないかね」
スネイプの後ろ姿を見つめながら、ファッジが言った。
「私が君の立場なら、ダンブルドア、目を離はなさないようにするがね」
「いや、不安定なのではない」ダンブルドアが静かに言った。
「ただ、ひどく失しつ望ぼうして、打ちのめされておるだけじゃ」
「それは、あの男だけではないわ!」ファッジが声を荒あららげた。「『日にっ刊かん予よ言げん者しゃ新しん聞ぶん』はお祭り騒ぎだろうよ! わが省しょうはブラックを追いつめたが、やつはまたしても、わが指の間からこぼれ落ちていきおった! あとはヒッポグリフの逃とう亡ぼうの話が漏もれれば、ネタは充分だ。私は物笑いの種たねになる! さてと……もう行かなければ。省のほうに知らせないと……」
「それで、吸魂鬼ディメンターは?」ダンブルドアが聞いた。
「学校から引ひき揚あげてくれるのじゃろうな?」
「ああ、そのとおり。連中は出ていかねばならん」
ファッジは狂ったように指で髪かみを掻かきむしりながら言った。
「罪もない子どもに『キス』を執しっ行こうしようとするとは、夢にも思わなかった……まったく手におえん……まったくいかん。今夜にもさっさとアズカバンに送り返すよう指し示じしよう。ドラゴンに校門を護まもらせることを考えてはどうだろうね……」
「ハグリッドが喜ぶことじゃろう」
ダンブルドアはハリーとハーマイオニーにチラッと笑いかけた。ダンブルドアがファッジと病室を出ていくと、マダム・ポンフリーがドアのところに飛んでいき、また鍵かぎを掛かけた。独ひとりで怒ったようにブツブツ言いながら、マダム・ポンフリーは医い務む室しつへと戻もどっていった。
病室の向こう端はしから、低い呻うめき声が聞こえた。ロンが目を覚ましたのだ。ベッドに起き上がり、頭をかきながら、周まわりを見回している。
「ど――どうしちゃったんだろ?」ロンが呻いた。「ハリー? 僕ぼくたち、どうしてここにいるの? シリウスはどこだい? ルーピンは? 何があったの?」
ハリーとハーマイオニーは顔を見合わせた。
「君が説明してあげて」そう言って、ハリーはまた少しチョコレートを頬ほおばった。