ハリー、ロン、ハーマイオニーは翌よく日じつの昼に退院したが、その時城にはほとんど誰もいなかった。うだるような暑さの上、試験が終わったとなれば、みんなホグズミード行きを十分に楽しんでいるというわけだ。しかし、ロンもハーマイオニーも出かける気になれず、ハリーと三人で校庭をぶらぶら歩きながら、昨さく晩ばんの大だい冒ぼう険けんを語り合った。そして、シリウスやバックビークはいまごろどこだろうと思案をめぐらせた。湖のそばに座り、大イカが水面みなもで悠ゆう々ゆうと触しょく手しゅをなびかせているのを眺ながめながら、ハリーはふと向こう岸に目をやり、会話の糸口を見失った。牡鹿おじかがあそこからハリーのほうに駆かけよってきたのは、ほんの昨日きのうの夜のことだった……。
三人の上を影かげがよぎった。見上げると、目をとろんとさせたハグリッドが、テーブルクロスほどあるハンカチで顔の汗を拭ぬぐいながら、にっこり見下ろしていた。
「喜んでちゃいかんのだとは思うがな、なんせ、昨さく晩ばんあんなことがあったし」
ハグリッドが言った。
「いや、つまり、ブラックがまた逃げたりなんだりで。――だがな、知っとるか?」
「なーに?」三人ともいかにも聞きたいふりをした。
「ビーキーよ! 逃げおった! あいつは自由だ! 一ひと晩ばん中お祝いしとったんだ!」
「すごいじゃない!」ハーマイオニーは、ロンがいまにも笑いだしそうな顔をしたので、咎とがめるような目でロンを見ながら、相あい槌づちを打った。
「ああ……ちゃんとつないどかなかったんだな」
ハグリッドは校庭の向こうのほうをうれしそうに眺ながめた。
「だがな、朝んなって心配になった。……もしかして、ルーピンに校庭のどっかで出くわさなんだろうかってな。だが、ルーピンは昨日きのうの晩は、何も食ってねえって言うんだ……」
「何だって?」ハリーがすぐさま聞いた。
「なんと、まだ聞いとらんのか?」
ハグリッドの笑顔がふと陰かげった。周まわりに誰もいないのに、ハグリッドは声を落とした。
「アー――スネイプが今朝、スリザリン生全員に話したんだ……俺おれは、もうみんな知っていると思っていたんだが……ルーピン先生は狼おおかみ人にん間げんだ、とな。それに昨日きのうの晩は、ルーピンは野放のばなし状じょう態たいだった、とな。いまごろ荷物をまとめておるよ。当然」
「荷物をまとめてるって?」ハリーは驚いた。「どうして?」
「いなくなるんだ。そうだろうが?」
そんなことを聞くのがおかしいという顔でハグリッドが答えた。
「今朝一番で辞やめた。またこんなことがあっちゃなんねえって、言うとった」
ハリーは慌あわてて立ち上がった。