シリウス、バックビーク、ペティグリューが姿を消した夜に、何が起こったのか、ハリー、ロン、ハーマイオニー、ダンブルドア校長以外には、ホグワーツの中で真しん相そうを知るものは誰もいなかった。学期末が近づき、ハリーはあれこれとたくさんの憶おく測そくを耳にしたが、どれ一つとして真相に迫せまるものはなかった。
マルフォイはバックビークのことで怒り狂っていた。ハグリッドが何らかの方法で、ヒッポグリフをこっそり安全なところに運んだに違いないと確信し、あんな森番に自分や父親が出し抜かれたことが癪しゃくの種たねらしかった。一方パーシー・ウィーズリーはシリウスの逃とう亡ぼうについて雄ゆう弁べんだった。
「もし僕が魔ま法ほう省しょうに入にゅう省しょうしたら、『魔法まほう警けい察さつ庁ちょう』についての提てい案あんがたくさんある!」
たった一人の聞き手――ガールフレンドのペネロピーに、そうぶち上げていた。
天気は申し分なし、学校の雰ふん囲い気きも最高、その上、シリウスを自由の身にするのに、自分たちがどんなに不可能に近いことをやり遂とげたかもよくわかってはいたが、ハリーはこれまでになく落ち込こんだムードで学期末を迎むかえようとしていた。
ルーピン先生がいなくなってがっかりしたのはハリーだけではなかった。「闇やみの魔ま術じゅつに対する防ぼう衛えい術じゅつ」でハリーと同じクラスだった全生徒が、ルーピンが辞やめたことで惨みじめな気持になっていた。
「来年はいったい誰が来るんだろ?」シェーマス・フィネガンも落ち込んでいた。
「吸血鬼バンパイヤじゃないかな」ディーン・トーマスは、そのほうがありがたいと言わんばかりだ。
ルーピン先生がいなくなったことだけが、ハリーの心を重くしていたわけではない。ともすると、ついトレローニー先生の予言よげんを考えてしまうのだった。いったいペティグリューはいまごろどこにいるのだろう。ヴォルデモートのそばで、もう安全な隠れ家を見つけてしまったのだろうか。そんな思いが頭を離はなれない。しかし、一番の落ち込みの原因は、ダーズリー一家のもとに帰るという思いだった。ほんの小こ半はん時とき、あの輝かがやかしい三十分の間だけ、ハリーはこれからシリウスと暮らすのだと信じていた……両親の親友と一いっ緒しょに……本当の父親が戻もどってくることの次にすばらしいことだ。シリウスからの便たよりはなく、便りのないのは無事な証しょう拠こだし、うまく隠れているからなのだとは思ったが、もしかしたら持てたかもしれない家庭のことを考えると、そしていまやそれが不可能になったことを思うと、ハリーは惨めな気持になるのだった。