フランクは右の耳をドアのほうに向けた。ましなほうの耳だ。瓶を何か硬かたい物の上に置く音がして、それから重い椅子を引きずる、床を擦こする鈍にぶい音がした。椅子を押している小こ柄がらな男の背中がちらりとフランクの目に入った。長い黒いマントを着ている。後頭部に禿はげがあるのが見えた。そして再び小男の姿は視し界かいから消えた。
「ナギニはどこだ?」冷たい声が言った。
「わ――わかりません。ご主人様」びくびくした声が答えた。「家の中を探たん索さくに出かけたのではないかと……」
「寝る前にナギニのエキスを絞しぼるのだぞ、ワームテール」別の声が言った。「夜中に飲む必要がある。この旅でずいぶんと疲れた」
眉まゆ根ねを寄せながら、フランクは聞こえるほうの耳をさらにドアに近づけた。一瞬いっしゅん間を置いて、ワームテールと呼ばれた男がまた口を開いた。
「ご主人様。ここにはどのぐらいご滞たい在ざいのおつもりか、伺うかがってもよろしいでしょうか?」
「一週間だ」冷たい声が答えた。「もっと長くなるかもしれぬ。ここはまあまあ居い心ごこ地ちがよいし、まだ計画を実行はできぬ。クィディッチのワールドカップが終わる前に動くのは愚おろかであろう」
フランクは節ふしくれだった指を耳に突っ込んで、掻かっぽじった。耳みみ糞くそがたまったせいに違いない。「クィディッチ」なんて、言葉とは言えない言葉が聞こえたのだから。
「ご主人様、ク――クィディッチ・ワールドカップと?」
ワームテールが言った。フランクはますますグリグリと耳をほじった。
「お許しください。しかし――わたくしめにはわかりません――どうしてワールドカップが終わるまで待たなければならないのでしょう?」
「愚か者めが。いまこのときこそ、世界中から魔法使いがこの国に集まり、魔ま法ほう省しょうのお節せっ介かいどもがこぞって警けい戒かいに当たり、不ふ審しんな動きがないかどうか、鵜うの目め鷹たかの目めで身み許もとの確認をしている。マグルが何も気づかぬようにと、安全対たい策さくに血ち眼まなこだ。だから待つのだ」